看護師として働く上で、「看護師免許」はすべてのスタートラインですが、それは決してゴールではありません。医療が高度化・複雑化する現代において、専門知識を深め、特定のスキルを証明する「資格」を取得することは、患者さんへ提供するケアの質を高めると同時に、あなた自身のキャリアアップ、待遇向上、そして働き方の選択肢を広げるための最も強力な武器となります。
この記事では、看護師が取得できる資格を、その役割や取得難易度に基づき、信頼できる情報(公的機関や日本看護協会の定義)を元に「3つの大きなカテゴリー」に分類し、それぞれの概要と取得方法を詳しく解説します。
すべての土台となる「国家資格」(基礎資格)
まず、看護職として働くために必須となる、厚生労働大臣認定の国家資格です。
1. 看護師(国家資格)
看護実践の基盤となる資格です。
- 資格概要:傷病者や褥婦(じょくふ)に対する療養上の世話、または診療の補助を行う専門職です。
- 取得方法:高校卒業後、文部科学大臣または厚生労働大臣指定の看護師養成課程(大学、短大、専門学校で3年以上)を修了し、看護師国家試験に合格することで免許が与えられます。
2. 准看護師
都道府県知事が発行する免許であり、看護師とは業務範囲が異なります。
- 資格概要:医師、歯科医師、または看護師の「指示を受けて」、療養上の世話や診療の補助を行います。
- 取得方法:准看護師養成所(2年)を修了し、都道府県知事試験に合格することで取得できます。
3. 保健師(国家資格)
看護師免許を基盤とした、公衆衛生・予防医療の専門家資格です。
- 資格概要:地域住民の健康増進や疾病予防のため、保健所、市町村、企業などで健康相談や保健指導、乳幼児健診などを行います。
- 取得方法:看護師国家資格を取得(または取得見込み)の上で、保健師養成課程(大学の専門コースや専門学校で1年)を修了し、保健師国家試験に合格する必要があります。
4. 助産師(国家資格)
看護師免許を基盤とした、妊娠・出産・産褥期のケアと分娩介助の専門家資格です。
- 資格概要:分娩の介助、妊婦・褥婦・新生児の保健指導を行います。正常分娩であれば医師の指示なく助産行為が可能です。
- 取得方法:看護師国家資格を取得(または取得見込み)の上で、助産師養成課程(大学院や専門学校で1年以上)を修了し、助産師国家試験に合格する必要があります。
【キャリアアップの王道】日本看護協会による上位資格
看護師免許を取得した後、さらなる専門性を目指す道として、日本看護協会が認定する「上位資格」があります。これらは「認定看護師」と「専門看護師」の2つの明確なパスに分かれており、役割が異なります。
1. 認定看護師(Certified Nurse: CN)
特定の看護分野において、卓越した「看護実践者」であることを証明する資格です。
役割と概要
認定看護師の役割は、特定の専門分野(例:救急、緩和ケアなど)において、非常に高いレベルの「実践」を行うことです。その卓越した技術と知識をもって、患者さんやご家族に直接ケアを提供し、同時に他の看護スタッフへの「指導」や「相談(コンサルテーション)」を行います。いわば「臨床現場のスペシャリスト」です。
主な分野の例
救急看護、皮膚・排泄ケア(WOCナース)、感染管理、緩和ケア、がん化学療法看護、手術看護、認知症看護など、非常に多くの分野に分かれています。
取得方法
- 看護師として5年以上の実務経験(うち3年以上は認定分野での経験)を持つこと。
- 日本看護協会が定める「認定看護師教育機関」で所定の教育課程(約6ヶ月~1年程度、特定の教育プログラム)を修了すること。
- 認定審査(筆記試験)に合格すること。
2. 専門看護師(Certified Nurse Specialist: CNS)
特定の看護分野において、卓越した「調整役・改革者」であることを証明する、看護系資格の最高峰の一つです。
役割と概要(認定看護師との違い)
認定看護師が「実践」に重きを置くのに対し、専門看護師は「実践・相談・調整・倫理調整・教育・研究」の6つの役割を担います。 高度なケアを実践するだけでなく、患者さんや家族、医療スタッフ間の複雑な倫理問題を調整したり、病棟や病院全体の看護の質を向上させるための「研究活動」や「組織改革」を主導したりする、より広範な役割(チェンジエージェント)が求められます。
主な分野の例
がん看護、精神看護、地域看護、老人看護、小児看護、母性看護、クリティカルケア看護、感染症看護など、14の分野(2025年現在)があります。
取得方法
- 看護師として5年以上の実務経験(うち3年以上は専門分野での経験)を持つこと。
- **看護系の大学院(修士課程)**を修了し、専門看護師教育課程の所定の単位を取得すること。
- 専門看護師認定審査(筆記試験・口述試験)に合格すること。 (※大学院(修士)の修了が必須であるため、認定看護師よりも取得へのハードルが非常に高いのが特徴です。)
その他の「関連専門資格」(スキルを広げる資格)
日本看護協会の認定資格以外にも、特定の医療領域で看護師のスキルを証明する、価値の高い関連資格が多数存在します。
1. 3学会合同呼吸療法認定士
呼吸管理の専門家です。人工呼吸器の管理や呼吸リハビリテーションに関する高度な知識と技術を証明する資格で、特にICU(集中治療室)や呼吸器内科・外科病棟で高く評価されます。
2. 日本糖尿病療養指導士(CDEJ)
糖尿病患者さんに対する療養指導(食事、運動、フットケア、インスリン自己注射指導など)の専門家です。糖尿病内科や内分泌内科クリニック、保健指導の現場で必須の知識となります。
3. ケアマネジャー(介護支援専門員)
これは看護資格ではなく介護保険分野の公的資格ですが、看護師が取得するケースが非常に多いです。病院の退院支援部門や、地域包括支援センター、訪問看護ステーション、介護施設などで、ケアプランを作成する専門家として活躍でき、キャリアチェンジの強力な武器となります。
資格取得を支える「リソース」と心構え
これらの高度な資格取得には、多くの時間と学習、そして費用が必要です。
病院や施設の支援制度を活用する
大規模な病院や教育体制の整った施設では、看護師のキャリアアップを支援するための制度(リソース)を用意している場合があります。 例えば、認定看護師教育機関に通うための「長期出張扱い」や「学費の補助・奨学金制度」、あるいは資格取得後の「資格手当」の支給などです。転職や就職の際には、こうした支援制度の有無も職場選びの重要な基準となります。
継続的な学習と情報収集
資格取得はゴールではありません。資格取得を目指すプロセス自体が、あなたの知識を深めます。日々の業務と並行して、専門書籍や文献データベースで学習したり、オンラインで提供される専門講座を受講したりするなど、継続的な自己研鑽が求められます。
資格取得は「未来の看護」をデザインする第一歩
看護師免許という土台の上に、「認定看護師」「専門看護師」あるいは「関連資格」という専門性を積み重ねていくことは、提供するケアの質を高めるだけでなく、あなた自身の働き方(例:専門外来の担当、教育担当、管理職への道)をデザイン(設計)することに他なりません。
あなたの関心とキャリアプランに合った資格を見つけ、より深い知識の世界へ進むための一歩を踏み出してみてください。