業務委託とは
業務委託は、会社が外部の個人や法人に仕事をお願いし、約束した範囲の業務を実施してもらう契約のことです。雇用契約とちがい、労働時間や勤務場所の細かな指示ではなく、成果物や業務の進め方を合意したうえで、一定の報酬を支払う形が基本になります。フリーランス、個人事業主、受託会社との取引でよく使われます。
契約形態の種類とちがい
請負契約
完成した成果物の引き渡しがゴールの契約です。デザインデータ、システム、レポートなど完成物がはっきりしている仕事に向いています。引き渡し後は検収と呼ばれる確認を行い、合格したら報酬を支払います。
準委任契約
一定期間、専門スキルを提供してもらう契約です。完成物ではなく、業務の遂行そのものがゴールになります。開発支援、運用、調査、コンサルティングなど、継続的な関与に向いています。時間単価や月額での契約が多いです。
委任契約
法務や会計など、法律行為を含む一部の専門職で使われます。日常の採用や制作では、請負か準委任のどちらかで整理されることが一般的です。
雇用や派遣とのちがい
雇用契約は会社の指揮命令のもとで働く前提で、労働時間、残業、休日、社会保険などの管理を会社が行います。派遣は派遣会社との雇用関係があり、就業先の指揮命令に従って働きます。
業務委託は、指示ではなく合意した業務範囲と成果で結びつく関係です。日々の細かな指示や勤務管理を委託先に行いすぎると、偽装請負と呼ばれる問題につながるおそれがあるため、役割分担と連絡の線引きを文書で明確にしておくと安心です。
契約で決める基本項目
業務範囲と成果物
どこからどこまで作業するか、完成の定義は何かを仕様書で言葉にします。スコープという言い方もします。
納期と検収
納品日、検収期間、合格基準を決めます。検収は受け取った成果が約束どおりかを確認するステップです。
報酬と支払サイト
金額、支払時期、振込日を決めます。支払サイトは請求から入金までの日数を指します。
変更手続き
要件が変わったときの合意方法、追加費用の見積の出し方を決めます。
責任と免責
損害が生じた場合の上限や、不可抗力災害の扱い、第三者の権利侵害があった場合の対応を定めます。
契約期間と解除
期間、更新、途中終了の条件、通知の期限を決めます。
お金と税務の基礎
源泉徴収
デザインや原稿料、講演など一部の報酬では、支払う側が所得税を差し引いて支払う取り扱いがあります。対象かどうかは業務の種類で変わります。
消費税とインボイス
課税事業者になるか、適格請求書発行事業者として登録するかで、請求書の書き方と取引先の扱いが変わります。免税の場合でも、取引先の要件でインボイスが求められることがあります。
経費と確定申告
通信費、ソフトやクラウド利用料、交通費、外注費など、業務に必要な支出は領収書や明細を保存し、帳簿に記録します。迷ったら税務署や専門家へ確認すると安心です。
知的財産と成果物の扱い
著作権
制作物の権利が誰に帰属するかを明記します。著作者人格権という、名前を表示するかどうかや改変への同意に関する権利もあります。納品後の改変や再利用の範囲は、使用許諾として条件を決めておくと齟齬が減ります。
第三者の権利
写真やフォント、ライブラリなど、第三者の素材を使うときはライセンス条件を確認します。万一の侵害があった場合の責任分担も定めます。
機密情報とセキュリティ
NDA
秘密保持契約です。営業情報、顧客データ、設計、未公開の企画など、何を秘密とみなすか、開示できる範囲、保存期間、返却方法を決めます。
データ管理
私物PCと業務PCの分離、クラウドの権限、パスワードの保管、バックアップの方法を取り決めます。アクセス権の付与や削除の手順も文字にしておくと安全です。
再委託とチーム体制
再委託は、受けた仕事の一部を別の人や会社に任せることです。許可の要否、守秘義務の連鎖、成果物の品質責任、連絡窓口を決めます。体制図を作り、誰が何を担当するかを先に共有すると運用が安定します。
品質と検収の考え方
完成基準
要件どおりに動くか、品質基準を満たしているかを事前に合意します。バグや不具合の扱い、修正回数、対応期限も合わせて決めます。
契約不適合
以前は瑕疵という言い方をしましたが、いまは契約不適合という表現が一般的です。契約に合っていない場合の直し方や費用負担のルールを明確にします。
スコープ変更の進め方
要件は動くことが多いものです。変更が発生したら、影響範囲、工数、納期、費用を整理した変更見積を作り、合意してから実施します。小さな変更でも記録を残すと、双方の安心につながります。
偽装請負を避けるための基本
委託先に常時常駐させ、日々の勤務時間や休憩、出退勤の管理、個人ごとの業務指示を細かく行うと、雇用と見なされるおそれがあります。業務委託では、委託側は成果と連絡のルールに集中し、作業の具体的な指示や勤怠管理をしない線引きが大切です。疑問があれば契約前にルールをすり合わせましょう。
よく使う関連書類と標準的な流れ
見積書で金額とスコープを提示し、発注書や注文書で内容を固めます。契約書とNDAを交わし、キックオフミーティングで目的、役割、スケジュール、連絡方法を確認します。進行中は週次の進捗共有やデモを行い、納品後に検収、請求書の発行、入金という順で進みます。
コミュニケーションと時間管理
連絡はツールと頻度を決め、報告、連絡、相談の基準を合わせます。マイルストーンごとに成果を見せ、問題は早めに共有します。固定報酬の場合は成果基準、時間精算の場合はタイムチャージのルールを明記し、稼働表や工数表で透明性を保ちます。
関連用語
稼働率
どれくらいの時間をその案件に使うかの割合です。週20時間であれば、1日4時間×5日などのイメージです。
支払サイト
請求から入金までの日数です。月末締め翌月末払いなどの表現で示されます。
善管注意義務
専門家として普通に求められる注意を払って仕事をする義務です。契約書で明記されることがあります。
反社条項
反社会的勢力との関係がないことを相互に約束する条項です。万一判明した場合の解除も定めます。
準拠法と管轄
契約の解釈に使う法律と、紛争が起きたときに扱う裁判所のことです。国内取引なら日本法、当事者の住所地管轄などが一般的です。
よくある質問
雇用と業務委託はどちらが良いか
継続的に社内で育成し、チームで長く働いてほしい場合は雇用が向きます。専門スキルを一定期間だけ活用したい、成果物単位で依頼したい場合は業務委託が向きます。
報酬は固定と時間精算のどちらが良いか
要件が固まっていて見積もりやすいなら固定が相性良いです。探索や調査、仕様が変わりやすい場合は時間精算が現実的です。
個人でも契約できるか
できます。屋号や個人名で契約するケースも一般的です。請求書の記載事項やインボイスの登録有無は事前に確認しましょう。
業務委託は、外部の力を使って仕事を前に進めるための柔軟な選択肢
業務範囲、納期、報酬、検収、知的財産、機密、変更手続きという基本を言葉にし、役割分担と連絡の線引きをはっきりさせれば、安心して協力できます。小さく始め、記録を残し、定期的に振り返る。丁寧な合意が、成果と信頼を大きくしていきます。