ダイレクトリクルーティングとは
ダイレクトリクルーティングは、企業が求人広告の応募待ちだけに頼らず、採用担当者や現場のマネージャーが自ら候補者を探し、声をかけて出会いをつくる方法です。スカウトやカジュアル面談を起点に、興味関心の合う人と早い段階でつながり、採用ブランディングやタレントプールの形成にもつながります。母集団形成を自社で進められるため、タイムトゥハイヤーの短縮や採用単価の最適化が期待できます。
何が違うのか
求人広告
募集要項を出して応募を待つやり方です。広く知ってもらえる一方、応募が来るまで待つ時間があります。
人材紹介
エージェントが候補者を紹介してくれます。即戦力に出会いやすい反面、フィーが発生します。
ダイレクトリクルーティング
企業が自ら候補者を検索し、スカウトを送ります。ニーズに近い人に直接届くため、面談化までの距離が近くなります。
基本の進め方
目的の明確化
今回の採用で解決したいことを言葉にします。例として新規事業の立ち上げ、離職によるバックフィル、スキルポートフォリオの強化など。
ターゲット定義
職種、必須スキル、歓迎スキル、年収レンジ、働き方の前提を整理します。職務記述書を作ると検索精度が上がります。職務記述書は英語でジョブディスクリプションと呼ばれます。
媒体選定
スカウトが送れるプラットフォームやSNS、コミュニティを選びます。エンジニアはGitHubや技術コミュニティ、デザイナーはポートフォリオサイトなど、職種ごとの相性があります。
検索とタグ設計
キーワード、スキルタグ、使用ツール、経験年数、勤務地やフルリモート可否などで候補者を探します。
スカウト文作成
テンプレートを土台にしつつ、相手の経歴や成果に合わせて一部を手作業で書き換えます。
面談設計
まずは30分の情報交換面談から。選考に入るかどうかは相互に判断します。
タレントプール運用
今回ご縁がなかった方にも、イベントや記事で継続的に関係を育てます。タレントプールは将来再アプローチできる候補者のリストです。
スカウト文の書き方
件名
相手の関心が分かる短い一文にします。例として在庫最適化のご経験を読み、ECの新機能開発についてお話したいです。
冒頭
経歴のどの点に注目したかを具体的に伝えます。記事執筆や登壇、成果の数値など、公開情報に触れると伝わりやすくなります。
提案
カジュアル面談の目的、想定ロール、ミッション、チーム体制、働き方を一段で示します。
選択肢
日程候補をいくつか提示し、オンラインか対面かを選べるようにします。
締め
返信のハードルを下げるため、興味が合わなければ遠慮なくお断りください、と添えます。
短い例文
在庫最適化のダッシュボード構築とリードタイム短縮のご実績を拝見しました。ECの需要予測プロジェクトでデータ基盤を強化しており、30分ほど情報交換をお願いできないでしょうか。フルリモート可、平日17時以降や土曜午前も調整できます。
関連用語
ソーシング
候補者を探してリスト化する活動です。検索条件やタグ設計の工夫が成果を左右します。
ATS
応募者管理システムのことです。応募や面談日程、評価の記録を一元管理できます。
CRM
候補者との関係を継続管理する仕組みです。過去のやり取りや興味分野を記録し、適切なタイミングで再連絡します。
KPI
成果を測る指標です。開封率、返信率、面談化率、応募化率、採用単価、タイムトゥハイヤーなどを追いかけます。
リファラル採用
社員紹介のことです。ダイレクトリクルーティングと組み合わせると出会いが広がります。
RPO
採用業務の一部を外部の専門会社に委託することです。波が大きい時期に相性が良いです。
うまくいくための工夫
一通目の個別化
経歴のどの行動や成果に関心を持ったのかを一文で示します。自動送信の印象を避けることができます。
面談の目的を共有
選考ではなく情報交換であること、話したいトピック、ミッション、期待値を事前に渡します。
候補者体験
返信があったら24時間以内に返す、日程は候補を三つ以上出す、面談後はまとめを送る。小さな配慮が信頼を生みます。
採用ブランディング
技術ブログ、事例記事、登壇スライド、カルチャーデックなどの資産を用意し、興味を持った人が深掘りできる導線を作ります。
データで改善
件名と本文のA Bテスト、曜日と時間帯の比較、返信理由の分類を月次で振り返ります。
候補者の立場での準備
プロフィール
職種、強み、使用ツール、成果の数値、希望する働き方を一段で書きます。更新履歴があると熱量が伝わります。
ポートフォリオ
スクリーンショット、コード、設計書、分析レポートなどを機密に配慮して整理します。
返信の型
今は転職予定がなくても、学びたい領域や面談可能な時間帯を書けば、将来の接点が残せます。
見極めの質問
最初の90日で期待される役割、チームの体制、評価の基準、働き方の前提を聞くとイメージが固まります。
法務とマナー
オプトアウト
スカウトを受け取りたくない人には配信停止の選択肢を明確にします。
個人情報保護
入手した連絡先や資料は採用目的の範囲でのみ使用します。保存期間やアクセス権も社内で決めます。
同意の確認
カジュアル面談は録音や資料共有の可否を最初に確認します。機密や未公開情報に配慮します。
利益相反の配慮
副業や業務委託の人に声をかける場合は、競合に当たらないかを事前に確認します。
指標とダッシュボードの例
開封率と返信率
件名や冒頭文の改善に活用します。
面談化率
スカウトの提案力や日程の出し方を見直します。
応募化率とオファー承諾率
面談の質、職務記述書、期待値の合意を確認します。
タイムトゥハイヤーと採用単価
ボトルネックの工程を特定し、並列化や事前準備で短縮します。
つまずきやすい点と対策
テンプレのまま送ってしまう
個別の一文を必ず入れます。相手の活動や成果に触れるだけで印象が変わります。
要件が曖昧なまま面談
役割、範囲、評価の基準、働き方を一段で渡し、合意のもとで会話します。
スカウトの送り過ぎ
週次や月次で上限を決め、返信速度を保てる数に絞ります。質の高い対話が結果につながります。
記録が散らばる
ATSやCRMに一元化し、タグとメモのルールを決めます。
相性の良いケース
成長中の事業で人材ニーズが継続する
長期的にタレントプールを育てる価値が大きいです。
採用難職種
エンジニア、データ、デザイン、PdM、カスタマーサクセスなどは相性が良いです。
多様な働き方を用意できる
フルリモート、副業可、裁量労働、フレックスなどが候補者の選択肢を広げます。
第二新卒やポテンシャル採用
カジュアル面談で素養や学びの姿勢を見極めやすいです。
チェックリスト
目的とターゲットを一文で言えるか
職務記述書と年収レンジが整理されているか
スカウトのテンプレと個別化の運用ルールがあるか
面談のアジェンダと資料が用意できているか
ATSやCRMで履歴とタグが管理できているか
開封率や返信率などの指標を週次で見られるか
オプトアウトや個人情報の扱いが明確か
ダイレクトリクルーティングは、求める人に自分たちから会いにいく能動的な採用です。
丁寧なスカウト、分かりやすい職務記述書、気持ちのよい候補者体験、そしてデータにもとづく改善。この四つを整えれば、出会いの質が高まり、採用のスピードと納得感が両立します。小さく始めてコツコツ磨くことで、次の出会いが自然に増えていきます。