OJT(職場内訓練)とは

OJTは、実際の仕事をしながら先輩や上司に教わり、短期間で戦力化を目指す育成の方法です。配属先の実務を教材にして、知識だけでなく、現場で必要な判断力や段取り、チームでの動き方まで身につけます。転職直後の立ち上がり(オンボーディング)を支える中心的な仕組みでもあります。

OJTで身につく三つの要素(KSA)

知識(Knowledge)
業界の基礎、扱うプロダクトやサービス、ルールや用語。
技能(Skill)
道具やツールの操作、手順、コミュニケーションのやり方。
態度(Attitude)
安全意識、顧客志向、チームワーク、報連相の基準。
この三つをセットで伸ばすと、再現性のある成果につながります。

進め方の基本フロー(教える・見せる・やってみる・振り返る)

教える
背景や目的、成功の定義を短く説明。使う資料は手順書(SOP)やチェックリスト。
見せる(デモ・シャドーイング)
先輩の実演を観察。ポイントと注意点をメモ。
やってみる(ハンズオン・ペアワーク)
小さな範囲から本人が実施。レビューやフィードバックをもらう。
振り返る(リフレクション)
良かった点・直す点・次の一手を言語化。翌日に活かします。
この一連を短いサイクルで回すと、定着が早まります(PDCAやOODAに近い考え方)。

OJTとよく一緒に使われる仕組み

メンター・バディ制度
日常の相談役。質問先が明確になると安心です。
1on1
週次や隔週で進捗と課題を話す時間。詰まりの早期発見に役立ちます。
Off-JT(集合研修・eラーニング)
法律や安全、セキュリティなどの共通基礎を座学で整備。LMS(学習管理システム)で動画やテストを管理します。
スキルマップ・コンピテンシー
役割ごとの期待行動や必要スキルを一覧化。何を到達すべきかが明確になります。

配属直後の90日モデル(例)

0〜30日
環境構築、業務の全体像、担当タスクを小粒で体験。レビュー頻度は高めに。
31〜60日
一人称で任せられる範囲を拡大。関連部署との連携を練習。
61〜90日
小さな改善提案を実行。成果の可視化と引き継ぎ資料の作成。
途中で週次のチェックイン(1on1)と、月次の中間レビューがあると軌道修正しやすくなります。

職種別のOJT例

カスタマーサポート
問い合わせ分類→回答テンプレの使い方→難易度別エスカレーション→品質監査。初回応答時間やCSAT(満足度)で習熟度を測ります。
営業・インサイドセールス
プロダクト理解→デモの流れ→商談メモの書き方→見積・契約。同行(シャドー)→部分担当→単独実施へ。
エンジニア
開発環境構築→小さな修正→コードレビュー→リリース。安全な範囲から着手し、レビュー基準で品質を学びます。
マーケティング
顧客理解→計測設定→コンテンツ作成→配信→効果測定。KPI(CVR、CTR、CPA)の見方をセットで習得。
バックオフィス
基幹システムの操作→月次処理→チェックリスト運用→監査対応。誤りやすい箇所のダブルチェック手順を明文化。

評価と進捗の見える化

オンボーディング完了率
定義されたチェック項目の達成割合。
リードタイム
初めての成果を出すまでの時間(初回チケット解決、初回リリースなど)。
レビュー通過率
提出物が基準を満たした割合。
自己評価とフィードバック
双方の認識差を埋めて、次週の学習テーマを決めます。
数字とメモを合わせると、伸びている理由・停滞の原因が見えます。

求職者が確認しておきたいポイント(企業研究・面接での質問例)

OJTの設計
配属後の90日計画やチェックリストはありますか。到達点の定義はどこにありますか。
トレーナー体制
メンターやバディは誰で、質問できる時間帯は決まっていますか。
学習リソース
手順書やナレッジベース、過去の事例集は整っていますか。
評価とフィードバック
レビューの頻度、評価の観点、昇給・昇格の基準はどこに書かれていますか。
働き方との相性
リモートやハイブリッドでもOJTが回る仕組み(画面共有、録画、非同期ドキュメント)はありますか。

要注意ポイント

丸投げで記録がない
手順書や過去事例がなく、経験者任せになっている。
属人化
特定の人にしか分からないやり方で、引き継ぎが困難。
レビューがない
やりっぱなしで改善の機会がない。
過度な長時間稼働
量で覚えさせる設計。健康面・品質面でリスクが高い。
こうした兆候がある場合は、入社前に体制や改善の意志を確認しましょう。

リモート時代のOJT

デイリーブリーフィング
10〜15分の朝会で目的と優先順位を共有。
画面共有・録画
実演やレビューを動画で残し、後から見返せるようにする。
ドキュメントファースト
決定事項や手順を短いメモにしてリンク化。検索性を高めます。
ペア作業のスロット
週に1〜2枠、ペアで作業する時間を固定。黙って見守る時間も学びになります。

OJTとOff-JTのバランス(70-20-10の考え方)

経験70
実務での挑戦。小さな責任範囲を増やす。
周囲からの学び20
メンター、ピアレビュー、コミュニティ。
学習10
書籍、動画、資格講座。
この配分を意識すると、手応えとスピードが上がります。

セキュリティとコンプライアンスの基礎

情報の扱い
顧客データや社外秘の保存場所、持ち出しルールを最初に確認。
NDA(秘密保持契約)
社外との連携時は範囲と期限を理解してから資料を扱います。
安全衛生・コンプライアンス
ハラスメント窓口、事故や不具合の報告手順、障害時の初動などは早めに身につけます。

OJTでつまずきやすい点と対策

質問がしづらい
質問の窓口と時間帯を決め、メモで事前共有。聞きやすさは設計で作れます。
詰め込みすぎ
一度に覚えず、タスクの粒度を小さく。達成体験を積み上げます。
目的がぼやける
タスクの背景と成功の定義を最初に言葉にする。チェックリストでズレを防ぐ。
振り返り不足
終わりに3分のメモ。良かった・直す・次の一手の三点だけで効果が出ます。

チェックリスト(入社前後に)

✅質問先(メンター・バディ)と1on1の頻度は決まっているか
✅OJTの到達点と評価観点が文書であるか
✅ナレッジベースと手順書の場所がわかるか
✅週次の振り返りと翌週計画の時間を確保しているか

OJTは、実務を教材にして力を伸ばす一番の近道です。

小さく始め、見える化し、短い振り返りで改善する。このシンプルな回し方が、転職直後の不安を減らし、貢献のスピードを高めてくれます。面接ではOJTの設計とサポート体制を確かめ、自分でも質問とメモの型を用意しておきましょう。準備のひと手間が、安心して力を発揮できる土台になります。