転職活動が実り、新しい職場が決まった看護師の皆さん、おめでとうございます。しかし、転職活動は「内定」で終わりではありません。むしろ、ここからが「円満退職」と「スムーズな入職」に向けた、非常に重要な事務手続きのスタートです。

特に看護師の転職では、「保険」「年金」「税金」といった公的な手続きが複雑に絡み合います。もし手続きを忘れると、保険証が手元にない期間が発生したり、余計な税金を支払うことになったり、金銭的な損失につながる可能性もゼロではありません。

この記事では、看護師の転職経験者が必ず通る道を、法制度や公的機関の情報に基づいた「信頼性」を最優先し、時系列に沿って「いつ」「どこで」「何を」すべきかを網羅した完璧なチェックリストとして解説します。


転職手続きの全体像:「3つのタイミング」で考える

看護師の転職手続きは、以下の3つのタイミングで発生する作業に分類すると、全体像が把握しやすくなります。

  1. 【現職】辞める職場での手続き(書類の返却と受領)
  2. 【転職先】新しい職場での手続き(書類の提出)
  3. 【最重要】離職期間(ブランク)がある場合の手続き(市役所など)

特に重要なのが「3」です。退職日の翌日に入職する(ブランクがない)場合と、1日でもブランク(離職期間)がある場合とでは、やるべき手続きが根本的に異なります。


ステップ1:現職(辞める職場)で「返却する」モノ

まずは、辞める職場に最終出勤日(または指定日)に必ず返却するもののリストです。

健康保険被保険者証(保険証)

  • 退職日の翌日から、その保険証は使用できません。 もし間違って使用すると、後日、医療費の7割~8割分を返納する手続きが発生し、非常に面倒です。
  • 扶養家族がいる場合、家族全員分の保険証も必ず一緒に返却します。

職員証・IDカード・名札(ネームプレート)

  • セキュリティに関わる重要物品です。

貸与されたユニフォーム・備品

  • クリーニングに出してから返却するのがマナーです。ロッカーやデスクも私物を残さず整理します。

ステップ2:現職(辞める職場)から「必ず受け取る」書類リスト

退職時に病院(法人)から受け取る、次の職場で必要になる重要書類です。もし受け取れない場合は、必ず総務課や人事課に発行を依頼してください。

1. 雇用保険被保険者証

  • あなたが雇用保険に加入していたことを証明する書類です。次の転職先へ入職する際、そのまま提出を求められます。

2. 年金手帳(または基礎年金番号通知書)

  • 厚生年金の手続きに必要です。多くの病院では入職時に預け、退職時に返却されますが、もし自分で保管している場合は、そのまま次の職場へ持参します。

3. 源泉徴収票

  • あなたがその年に現職でいくら給与をもらい、いくら税金を納めたかを証明する書類です。
  • 次の転職先が、あなたの年末調整(その年の所得税の最終計算)を行うために絶対に必要となります。
  • これは通常、退職後1ヶ月以内(最後の給与計算後)に自宅へ郵送されることが多いです。

4. 離職票

  • 【要注意】これは全員が必要な書類ではありません。
  • 離職票は、次の転職先が決まっておらず、失業手当(雇用保険の基本手当)を受給する場合にのみ必要となる書類です。
  • すでに次の職場が決まっている場合(=失業手当を受給しない場合)、原則として離職票は不要です。(もし必要か聞かれたら「不要です」と答えて問題ありません)

ステップ3:【最重要】離職期間(ブランク)が「1日」でもある場合の手続き

ここが看護師の転職手続きにおける最大の関門です。

例えば、「3月31日に退職し、4月1日に入職する」場合は、社会保険や年金が途切れないため、以下の手続きは一切不要です。

しかし、「3月31日に退職し、4月10日に入職する」「少し休んで5月1日から入職する」など、1日でも会社に所属しない日(ブランク)が発生する場合は、日本の「国民皆保険・皆年金」の原則に基づき、自分で公的手続きを行う法的義務が発生します。

この手続きは、**お住まいの市区町村の役所(市役所・区役所)**の窓口で行います。

1. 健康保険の手続き(3つの選択肢)

退職日の翌日から、あなたは「会社の保険」を失います。病院にかかれない無保険状態を防ぐため、以下の3つから必ず1つを選びます。

  • 選択肢A:国民健康保険に加入する(最も一般的)
    • 役所の「国民健康保険課」窓口で加入手続きを行います。保険料は前年の所得に基づいて計算されます。
  • 選択肢B:元の職場の保険を「任意継続」する
    • 退職後2年間、元の職場の保険に継続加入できる制度です。ただし、これまでは会社が半額負担していた保険料が全額自己負担になるため、保険料は約2倍になります。それでも、国民健康保険料(選択肢A)より安くなる場合や、扶養家族が多い場合はメリットがあるため、比較検討が必要です。(退職後20日以内など申請期限が短いため注意)
  • 選択肢C:家族の扶養に入る
    • もし配偶者や親が会社員で、あなたの年収見込み(失業手当を含む)が基準(通常130万円未満)を下回る場合、家族の健康保険の「被扶養者」になるのが最も保険料負担が軽い選択肢です。

2. 年金の手続き

健康保険と同時に、厚生年金(会社員)からも脱退することになります。 役所の「国民年金課」窓口で、「第2号被保険者」から「第1号被保険者」への種別変更手続きを行います。これにより、ブランク期間中は自分で国民年金保険料を納付することになります。(これを忘れると、将来の受給額が減る「未納期間」が発生します)

3. 住民税の手続き

住民税は「前年の所得」に対して課税され、翌年6月から給与天引きで支払う(後払い)仕組みです。退職すると給与天引きができなくなるため、残りの税額分の「納付書」が後日自宅に郵送されてきます。まとまった金額になることが多いため、驚かずに納税の準備をしておきましょう。


ステップ4:転職先(新しい職場)に「提出する」書類リスト

無事に入職日を迎えたら、新しい職場の人事・総務担当者に以下の書類を提出し、手続きを行います。

  • 雇用保険被保険者証(ステップ1で受け取ったもの)
  • 年金手帳(または基礎年金番号通知書)
  • 源泉徴収票(前職分)
  • 看護師等免許証(原本) (有資格者であることの証明として、原本の提示(またはコピーの提出)を必ず求められます)
  • 扶養控除等申告書 (年末調整や家族手当の計算のために、扶養家族の状況などを申告する書類です)
  • 給与振込先の口座情報
  • マイナンバー
  • 健康診断書(事前に受診を指示されている場合)
  • 身元保証書など(病院独自の書類)

【看護師特有】忘れてはいけない「免許証」の公的手続き

これは転職手続きとは別ですが、転職と同時に発生しやすい看護師特有の「法的義務」です。

手続きが必要なのは「氏名」「本籍地」の変更時

看護師は、「氏名」または「本籍地(都道府県)」に変更があった場合、変更発生から30日以内に「籍(名簿)訂正・免許証書換交付申請」を行うことが法律で義務付けられています。

転職そのものでは手続きは不要ですが、転職を機に「結婚」した場合、必ずこの手続きが必要です。

どこで手続きするか?

手続きの窓口は、お住まいの住所地を管轄する「保健所(保健福祉センター)」です。必要な書類(戸籍謄本など)を確認の上、必ず期限内に申請してください。


手続きの漏れは「知らなかった」では済みません

看護師の転職は、キャリアの大きな一歩であると同時に、公的な義務が伴う行政手続きの連続です。特に「ブランク期間」が発生する場合の保険・年金の手続きは、知らなかったでは済まされず、将来の不利益に直結します。

このリストを活用し、何をいつまでにやるべきかを整理して、万全の体制で新しいキャリアをスタートさせてください。