子どもの体を守るために必要なこと
小児は体内の水分量が多い一方で、調整機能が未発達なため、下痢や嘔吐が続くとあっという間に脱水に進んでしまう危険性があります。特に急性胃腸炎などのウイルス感染による症状は家庭でもよく見られる一方で、重症化のスピードも早いため、看護師の観察とケアが子どもの安全を守る要になります。さらに、病棟や家庭内での感染拡大を防ぐことも大切な看護の役割です。
症状を正しく見極める観察の視点
下痢や嘔吐がある場合、ただ回数を数えるだけでなく、その性状や経過を丁寧に把握することが重要です。血液や胆汁の混入があれば重症化の可能性が高く、強い腹痛や高熱を伴えば細菌感染や髄膜炎といった別の疾患を疑う必要もあります。
また、水分バランスの把握も欠かせません。尿量の減少、体重減少、皮膚や口唇の乾燥は脱水のサインです。活気の低下や意識の変化が見られる場合には、すぐに対応を考えなければなりません。
脱水を予防するためのケア
軽度から中等度の脱水であれば、経口補水療法(ORS)が基本です。嘔吐を繰り返していても、5〜10mLを数分おきに少量ずつ与えることで吸収が促されます。看護師は「少しずつこまめに飲ませることが大切」という工夫を家族と共有する必要があります。
しかし、経口摂取が困難であったり、尿が出なくなってきたりした場合には輸液が必要です。20mL/kgを目安に急速補正を行い、その後は維持輸液でバランスを整えていきます。輸液後の活気の回復や尿量増加を観察することが、看護の大切な役割です。
感染を広げないための看護
下痢や嘔吐の背景に多いウイルス性胃腸炎は、家庭や病棟内で感染が拡大しやすい疾患です。そのため、看護師自身と周囲を守る感染対策が欠かせません。
標準予防策に加えて接触予防策を徹底し、必要に応じて手袋・ガウン・マスクを使用します。嘔吐物や下痢便は次亜塩素酸ナトリウムで処理することが推奨されています。特にノロウイルスではアルコール消毒が効きにくいため、流水と石けんでの手洗いが最も有効です。
隔離対応も必要で、可能であれば個室管理、同じ病因であればコホート隔離を行います。
家族を支えるコミュニケーション
下痢や嘔吐が続く子どもを前に、保護者は「水を飲ませても吐いてしまう」「ぐったりしている」と大きな不安を抱えます。看護師は「多くの場合は数日で回復します。水分補給が最も大切です」と伝え、安心を与えることが大切です。
また、家庭での観察の目安をわかりやすく説明する必要があります。「尿が出ない」「強い血便がある」「意識がぼんやりしている」といった症状はすぐに受診が必要であると具体的に伝えましょう。
食事については、嘔吐が落ち着いてから消化にやさしいもの(おかゆ、うどん、バナナなど)を勧めると安心されます。家庭内感染防止にはタオルの共用を避け、トイレや洗面所の清掃を徹底することが大切です。
臨床から学ぶ事例
2歳の子どもが夜間に嘔吐を繰り返し、母親は「水を与えるとすぐに吐く」と不安を訴えました。看護師が少量ずつORSを飲ませる方法を提案したところ、嘔吐の回数が減り、翌日には脱水の兆候も改善しました。
この事例は、看護師の一言が家族の安心と患児の回復に直結することを示しています。
看護実践の振り返り
小児の下痢・嘔吐は、脱水への進行と感染拡大の両面に注意が必要です。看護師は症状を丁寧に観察し、水分補給を工夫しながら、必要に応じて輸液を導入します。感染対策を徹底することで病棟や家庭を守り、家族には安心感と具体的なケア方法を伝えることが求められます。
子どもを支える看護は、脱水予防と感染管理、そして家族の不安を和らげる支援が三本柱です。
参考文献
- World Health Organization. (2013). Pocket book of hospital care for children: guidelines for the management of common childhood illnesses. 2nd edition. https://www.who.int/publications/i/item/9789241548378
- American Academy of Pediatrics. (2019). Clinical Report—Diagnosis and Management of Acute Gastroenteritis in Children in Developed Countries. Pediatrics, 143(3), e20183604. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30808671/
- Guarino, A., et al. (2014). European Society for Paediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition/European Society for Paediatric Infectious Diseases evidence-based guidelines for the management of acute gastroenteritis in children in Europe. Journal of Pediatric Gastroenterology and Nutrition, 59(1), 132–152. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24739189/