小児の発熱を理解するために
小児の発熱は日常的に遭遇する症状であり、多くはウイルス性の一過性疾患に伴うものです。しかし一方で、髄膜炎や肺炎などの重篤な病気の初期サインである可能性も否定できません。看護師にとって大切なのは、ただ「熱があるか」ではなく、全身状態と合併症兆候を総合的に評価することです。
発熱時の観察で大切にしたいこと
小児の体は変化が早いため、細かな観察が欠かせません。
- 体温の変化:発熱開始の時間、最高体温、解熱の有無
- バイタルサイン:年齢に応じた基準と比較し、心拍数や呼吸数を確認
- 全身状態:活気、表情、食欲、睡眠の質
- 水分摂取と尿量:尿が出ているかどうかは重要な指標
- 重症化のサイン:項部硬直、呼吸困難、けいれん、発疹、意識障害
- 家族の気づき:「なんとなく元気がない」などの主観的な情報も重要
子どもの快適さを守るケア
発熱は体の防御反応であるため、すべてを抑える必要はありません。しかし、不快感を和らげることは大切です。
- 安静を保つ:室温を調整し、衣類は厚すぎず薄すぎずに整える
- 清拭や冷罨法:体温を下げるよりも「気持ちよさ」を重視
- 水分補給:少量を何度も与えることで脱水を防ぐ
- 薬物療法:アセトアミノフェンなどは「楽にするため」に使うと説明し、投与後は体温と全身状態を継続観察
看護師の観察と判断の視点
看護師は、発熱そのものよりも「その子の全体像」を見て判断します。
ぐったりしていないか、目の動きや反応に違和感がないか、呼吸の仕方に異常はないか。こうした情報を短時間で整理し、医師に報告する力が求められます。
家族の不安に寄り添うケア
発熱は子どもだけでなく、家族に大きな不安を与えます。看護師の言葉が安心感につながることも少なくありません。
- 「発熱は体がウイルスと戦っている証拠」と説明することで不安を軽減
- 重症化サイン(けいれん、呼吸困難、意識障害など)を具体的に伝える
- 水分摂取と尿量確認の大切さを家庭で実践できるよう支援
- 解熱薬の目的は「熱を下げる」ではなく「楽にする」ことと伝える
医療連携に役立つ報告(SBAR活用)
看護師の報告が的確であるほど、医師の判断が早くなります。
例:
S:「4歳児、39.2℃でぐったり」
B:「昨日から咳と鼻汁あり、水分摂取不良、尿量減少」
A:「体温39.2℃、脈拍140/分、呼吸数36/分、SpO₂ 95%、軽度脱水疑い」
R:「輸液開始と感染症検査の指示をお願いします」
臨床から学ぶケース
5歳の子どもがインフルエンザで高熱を呈し、母親は「熱で脳に影響があるのでは」と強く不安を抱いていました。看護師は「熱は防御反応であり、多くは自然に下がります」と説明しつつ、重症サインだけを重点的に伝えました。その結果、母親は安心し、子どもも落ち着いて安静を保つことができました。
看護実践の振り返り
小児の発熱は多くが自然に回復しますが、重症化を見逃さない観察力と、家族へのわかりやすい説明が不可欠です。看護師の判断と声かけが、子どもの安心と家族の信頼につながります。
参考文献
- 日本小児科学会. 小児救急ガイドライン
- Sullivan, J. E., & Farrar, H. C. (2011). Fever and Antipyretic Use in Children. Pediatrics, 127(3), 580–587. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21357332/
- World Health Organization. (2013). Pocket book of hospital care for children: guidelines for the management of common childhood illnesses.