看護師の皆さんにとって、転職はキャリアアップやワークライフバランス改善のための重要なステップです。しかし、十分な準備や知識がないまま転職活動を進めてしまうと、「こんなはずではなかった」と短期間で再び離職を考えるような「失敗」に陥る危険性も潜んでいます。
転職とは、あなたの貴重な時間とキャリアを投資する行為です。その投資を成功させるためには、看護師転職特有の「落とし穴(=注意点)」をあらかじめ知っておく必要があります。
この記事では、転職で失敗しないために、看護師の皆さんが活動の各ステップで確認すべき「知っておくべきこと」を、信頼できる情報に基づき、失敗例と対策を交えながら詳しく解説します。
注意点1:「なぜ辞めるか」の分析が甘いと失敗する
転職で失敗する最大のパターンは、「今の職場が嫌だから」というネガティブな動機だけで行動してしまうことです。
現在の不満点の「根本原因」を特定する
現在の職場に対する不満(例:人間関係が悪い、残業が多すぎる、給与が低い)を洗い出すことは大切です。しかし、重要なのはその「根本原因」を突き止めることです。
例えば、「残業が多い」という不満の本質が、「人手不足による慢性的な業務過多」なのか、それとも「緊急入院が多い急性期病棟という特性」なのかによって、次に選ぶべき職場は全く異なります。前者を理由に別の急性期病院に移っても、問題は解決しません。
「転職の軸(譲れない条件)」を決めていない
不満点の解消だけをゴールにすると、別の問題に直面します。「残業ゼロの職場」を選んだら、「給与が大幅に下がり、やりがいも感じられなくなった」という失敗は典型例です。
転職活動を始める前に、必ず「自分にとって譲れない条件(転職の軸)」を一つだけ決めてください。給与、勤務地、業務内容(やりがい)、休日(ワークライフバランス)。すべてを満たす職場は稀です。あなたが何を最優先するのかを定めることが、失敗を避ける第一歩です。
注意点2:求人票の「良い言葉」だけを信じてしまう
あなたの「軸」が定まったら、次は情報収集です。しかし、求人票(広告)の言葉を鵜呑みにすると、入職後に大きなギャップに苦しむことになります。
「月給」ではなく「基本給」を確認する
求人票に書かれた「月給35万円(諸手当含む)」という数字だけを見てはいけません。必ず確認すべきは「基本給」です。
賞与(ボーナス)や退職金の算定基準は、月給総額ではなく「基本給」であることがほとんどです。一見給与が高くても、基本給が極端に低く設定され、各種の手当で月給を高く見せている求人があります。この場合、ボーナスが想定の半分以下だった、という失敗に繋がります。
「休日」の定義を知る
休日の表記にも注意が必要です。「週休2日制」と書かれていても、「毎週2日休み」という意味ではありません。これは「月に1回以上、週2日の休みがある」という意味です。毎週2日間の休みが保証されているのは「完全週休2日制」です。
最も信頼できる指標は「年間休日」の総日数です。一般的に120日以上あればカレンダー通り、110日台なら平均的、105日以下(4週8休など)は休日が少なめ、と判断できます。
ネットワーキングで「一次情報」を得る
求人票や口コミサイトの情報は、あくまで参考です。可能であれば、看護師仲間や先輩、転職エージェントなどを通じて、その病院(施設)で実際に働いている、あるいは働いていた人の「一次情報」を得ることが、失敗を避ける最も確実な方法です。
注意点3:面接と見学での「確認不足」
書類選考を通過し、面接や見学に進んだ時が、あなたが「職場を見極める」最大のチャンスです。
面接は「お見合い」の場である
面接は、あなたがテストされるだけの場ではありません。あなたが「この職場で本当に働けるか」を最終確認する「お見合い」の場でもあります。 過去の経験やスキルをアピールするだけでなく、「残業の実態」「夜勤の体制(看護師の人数、休憩時間)」「中途採用者への教育体制」など、あなたが不安に思っている点を具体的に確認する場として活用してください。
評価を上げる「逆質問」を準備する
面接の最後にある「逆質問(何か質問はありますか?)」の時間は、あなたの熱意とリサーチ力を示す最大のチャンスです。「特にありません」は、準備不足と熱意の欠如と見なされます。
「入職までに準備しておくべき知識はありますか」「貴院(病棟)で活躍されている看護師の方に共通する特徴は何ですか」といった、意欲的かつ具体的な質問を必ず3つ以上は準備しておきましょう。
職場見学は「五感」で行う
可能であれば、職場見学は必ず行いましょう。その際、案内担当者の説明を聞くだけでなく、あなたの五感を使って「現実」を確認します。
働いている看護師たちの「表情」(疲弊していないか)、ナースステーションの「整理整頓具合」(乱雑だと事故が多い)、スタッフ間の「言葉遣い」(尊重があるか)、フロア全体の「匂い」(清潔か)。これらは求人票には絶対に書かれていない、職場の実態を示す重要な情報源です。
注意点4:労働条件(雇用契約)の軽視
内定が出た後、最後にして最大の注意点が「労働条件の確認」です。
「口約束」は信用しない
面接で「残業はほとんどないよ」「すぐに昇給できるよ」と言われたとしても、その言葉に法的な拘束力はありません。あなたの労働条件を保証する唯一の書類は、内定後に提示される「雇用契約書(または労働条件通知書)」だけです。
雇用契約書は隅々まで読み込む
内定の喜びに流され、サインや捺印を急いではいけません。以下の項目は必ず確認してください。
- 契約期間(正職員=期間の定めなし、か)
- 給与(「基本給」と「各種手当」の内訳が、求人票や面接の説明と一致しているか)
- 勤務時間、休憩時間、休日、休暇
- 試用期間の有無と、その間の条件(給与が変わるかなど)
もし口約束と違う点があれば、入職前に必ず書面で確認し、修正を依頼する勇気が必要です。
注意点5:現職への「辞め方」のトラブル
見落としがちな最後の注意点は、「今の職場の辞め方」です。
狭い看護業界での「評判」を軽視しない
看護師の業界は、あなたが思う以上に狭く、横で繋がっています。 「もう辞めるから」と引き継ぎを疎かにしたり、強い不満をぶつけて感情的に退職したりすると、あなたの「悪い評判」が、転職先や、さらにその次の転職先にまで伝わってしまうリスクがあります。
正しい手順で「円満退職」を目指す
トラブルを避ける鉄則は、最初に伝える相手を「直属の上司(看護師長)」にすること、そして就業規則に定められた時期(通常1~2ヶ月前)までに退職の意向を伝えることです。
同僚に先に愚痴のように話してしまうと、それが人づてに師長の耳に入り、関係がこじれる最大の原因となります。お世話になった職場への最低限の礼儀として、誠実な引き継ぎと挨拶を行うことが、結果として未来のあなた自身を守ることにつながります。
「知る」ことで回避できる、転職のリスク
看護師の転職における失敗の多くは、「知らなかった」「確認しなかった」「こんなはずではなかった」という準備不足から生じます。
転職とは、あなたの看護師としての未来を切り開くポジティブな行動です。この記事で挙げた「注意点」を事前に知り、一つひとつのリスクを確実に回避することで、あなたのキャリアにとって本当に価値のある転職を実現してください。