小児の術後看護においては、身体的な回復促進(早期離床)と心理的安定(ケア・安心感の提供)の両立が重要です。
研究では、早期離床は呼吸器合併症や血栓症の予防に有効であり、さらに術後回復のスピードを高めることが示されています(Stark et al., 2016; Cochrane Review, 2020)。一方で、不安や恐怖が強い患児は離床に消極的になりやすく、心理的支援を欠いた場合には回復が遅れるリスクがあります。

看護師は段階的離床の工夫、疼痛コントロール、心理的支援、家族との協働を通じて、子どもの回復力を最大限に引き出す役割を担います。


早期離床の意義と看護

離床の意義

  • 呼吸器合併症の予防(無気肺・肺炎リスクを減らす)
  • 血栓症・循環不全の予防(下肢静脈血栓症の抑制)
  • 消化管機能の回復促進(腸蠕動促進・排便リズム改善)
  • 回復意欲の向上(「動けた」という体験が自信を育む)

実践の工夫

  • 段階的離床プラン
    • ベッドアップ → ベッドサイド座位 → 車椅子 → 歩行
    • 子どもの体力と心理状態に応じてステップアップ
  • 疼痛コントロール
    • PCA(自己調節鎮痛)や鎮痛薬を適切に使用
    • 痛みが離床の最大の障壁であるため、疼痛評価スケール(Faces Pain Scale など)で評価し対応
  • 動機づけ
    • ゲーム感覚(廊下でシール集め、スタンプラリー方式)
    • 親や兄弟と一緒に「チャレンジ」として実施
  • 観察ポイント
    • バイタル変化、SpO₂、顔色
    • 疼痛スコアと不安の表情変化

心理的ケアの視点

  • 術後不安への寄り添い
    • 「痛い」「怖い」という訴えを否定せずに傾聴
    • 子どもが安心できる表現で説明
  • プレパレーション
    • 絵カード・人形・模型を使い「これから何をするか」を具体的に伝える
    • 手順を可視化することで不安を軽減
  • 家族の関わり
    • 親の付き添いや声かけは心理的安定に直結
    • 家族の存在が「安心の基地」になる
  • 成功体験の積み重ね
    • 「今日は歩けたね」「座れたね」と褒めて達成感を強化
    • 小さな成功を積み重ねて自己効力感を高める

家族への支援

  • 早期離床の意義を説明
    「動くことで回復が早まり、合併症を防げます」と具体的に伝える。
  • 家庭での協力を依頼
    離床時に付き添い、励まし役になってもらう。
  • 退院後の生活指導
    • 活動再開の目安(学校・運動の開始時期)
    • 安静が必要な場合の注意点(心臓手術後などは特に重要)

SBAR報告テンプレ

  • S(状況):「5歳児、術後2日目で離床が進まない」
  • B(背景):「虫垂炎術後。疼痛コントロールは行っているが歩行を拒否」
  • A(評価):「痛みの訴えが強く、不安も顕著。親の励ましで座位までは可能」
  • R(推奨):「心理的支援強化と鎮痛薬追加の指示をお願いします」

ケーススタディで学ぶ

Case:小児心臓手術後の回復

  • 7歳児。疼痛と不安で離床拒否。
  • 看護師が「一緒に廊下の絵を探そう」と提案。
  • 親と手をつないで歩行に成功。
  • 成功体験が自信につながり、以降は自発的に歩行を継続。
  • 術後合併症なく順調に退院。

👉 教訓:遊びや家族の協力を取り入れる工夫が、早期離床と心理的安定を同時に支える。


学びの整理

  • 小児の術後回復には 早期離床=身体回復の鍵心理的ケア=安心の鍵
  • 看護師は 疼痛管理・段階的離床・心理的サポート(プレパレーション) を組み合わせて支援する。
  • 家族には 離床の意義を伝え、退院後も継続できる工夫を提供する。
  • 成功体験の積み重ねが子どもの「回復力」を高め、病気に立ち向かう力となる。

参考文献(リンク有効版)