呼吸の異常を見逃さないために

小児は解剖学的に気道が狭く、呼吸機能も未発達であるため、急速に呼吸困難に陥りやすいという特徴があります。呼吸の異常は数分のうちに悪化し、呼吸不全から心停止に直結する危険性もあるため、看護師による迅速な観察と初期対応が生命を守る要になります。

子どもが「いつもと違う呼吸」をしているとき、いち早くそのサインを見抜き、チームと連携して処置につなげることは、看護師にとって極めて重要な役割です。


呼吸困難を知らせるサイン

呼吸困難は、努力呼吸や皮膚の色、意識レベルの変化など、多くの兆候として現れます。鼻翼を広げて呼吸する姿や、肋間や鎖骨の上が大きくへこむ陥没呼吸は、呼吸に大きな負担がかかっているサインです。

また、吸気時にヒューヒューと音が聞こえる場合は上気道の閉塞、呼気時にゼーゼーと音が強い場合は下気道の閉塞を示唆します。頻呼吸はもちろんですが、逆に呼吸数が減少してきた場合には疲弊が進んでいる危険な兆候です。口唇や爪が紫色になるチアノーゼや、ぐったりした傾眠状態も重症のサインとして注意が必要です。


看護師が注目すべき観察の視点

呼吸困難時の観察では、呼吸数やSpO₂、胸郭の動きを細かく確認することが基本です。左右差がある場合には気道閉塞や無気肺などを疑う必要があります。心拍数や血圧の変化、末梢循環を示す毛細血管再充満時間(CRT)も大切な指標となります。

原因を推定することも看護師の重要な役割です。異物誤嚥やクループ症候群といった上気道閉塞、細気管支炎や喘息発作による下気道疾患、さらには循環不全や代謝異常に伴う二次的な呼吸困難など、背景を見極めながら観察を進めます。


初期対応 ― 命を守る第一歩

呼吸困難に気づいたら、まずABC(気道・呼吸・循環)の評価を迅速に行います。気道が閉塞していないかを確認し、呼吸数やSpO₂を測定します。

子どもが呼吸をしやすい体位に整えることも重要です。座位やセミファウラー位は呼吸を楽にしますが、意識が低下している場合には側臥位で誤嚥を防ぐ工夫が必要です。

SpO₂が低下していれば酸素投与を開始し、必要に応じてマスクやリザーバーを使います。痰や嘔吐物で気道が塞がれている場合は速やかに吸引を行い、状態が改善しない場合には直ちに医師へ報告します。


看護師の役割と責任

呼吸困難は数分で状態が変化するため、持続的な観察が欠かせません。SpO₂や呼吸音の変化をモニタリングし、異常をいち早く医師に報告することが求められます。

また、子どもが不安を感じやすい場面だからこそ、親の存在を活かすことも大切です。「お母さんが隣にいてくれる」「看護師さんがずっと見てくれている」という安心感は、呼吸困難時の心理的な支えとなります。

さらに、挿管や吸入療法が必要になったときにすぐ対応できるよう、チームでの準備と連携も看護師の大切な責任です。


家族への説明と安心の提供

呼吸困難の子どもを目の前にした家族は、大きな不安を抱えます。看護師は「体を起こすと呼吸が楽になります」「痰や鼻水はすぐに吸引します」といった具体的な説明を行い、安心感を与えることが重要です。

また、「医師と連携して処置を進めます」と伝えることで、家族が医療チームを信頼しやすくなります。家族を観察に巻き込み、異変を一緒に気づけるようにすることも再発予防に役立ちます。


臨床から学ぶケース

3歳児が夜間に犬吠様の咳と吸気性喘鳴を呈し、呼吸困難に陥った症例では、起座位にして酸素を投与した後、吸入療法を行うことで改善しました。SpO₂は92%から回復し、入院で経過を見守ることができました。

このように、体位の工夫と酸素投与、そして早期の医師への報告が、呼吸状態の安定と命の安全につながります。


看護実践の振り返り

小児の呼吸困難は悪化が早く、呼吸停止のリスクを常にはらんでいます。努力呼吸、SpO₂の低下、意識の変化はすべて危険なサインであり、看護師はそれをいち早く察知しなければなりません。

初期対応としては、呼吸を楽にする体位、酸素投与、吸引が基本です。そして、速やかに報告と連携を行い、家族を支えながら患児の安全を守ることが、看護師に求められる役割です。


参考文献