小児脱水を理解する大切さ
子どもは体の中の水分量が成人よりも多く、代謝も活発です。そのため、下痢や嘔吐、発熱などが続くと短時間で脱水に進んでしまいます。重症化すると循環不全や意識障害に至る危険性があるため、看護師による早期の観察と適切なケアが欠かせません。
脱水の重症度を見極める視点
脱水は体重減少率や臨床所見から判断されます。軽度であれば口の渇きや尿量減少が中心ですが、中等度になると眼窩陥没や粘膜の乾燥、不機嫌や傾眠などが目立ってきます。重度では無尿、皮膚ツルゴール消失、意識障害やチアノーゼなど、生命の危機に直結するサインが出現します。
臨床で観察すべきポイント
日々の観察では、単なる水分摂取量の把握だけでなく、全身状態を含めた評価が大切です。
- 表情や活気、反応の変化
- 尿量の減少や体重の変化
- 口唇や皮膚の乾燥、涙が出ているかどうか
- 末梢循環の状態(手足の冷感、毛細血管再充満時間)
- 代謝性アシドーシスに伴う呼吸の変化
これらの情報を総合的に捉えることで、脱水の程度を適切に評価できます。
経口補水と輸液療法の基本
軽度〜中等度の脱水であれば、経口補水療法(ORS)が第一選択です。嘔吐があっても、少量を頻回に与えることで吸収されやすくなります。
一方で、中等度以上や経口摂取が難しい場合には輸液が必要です。初期補正では体重1kgあたり20mLの乳酸リンゲル液または生理食塩水を急速投与し、その後は維持輸液と不足分の補正を組み合わせます。電解質異常がある場合は、補正速度に十分注意する必要があります。
看護師の役割と臨床での工夫
輸液療法を行う際は、滴下速度の正確な管理と、針部の腫脹や浸潤の有無を巡視で確認することが大切です。並行して、バイタルサインや尿量、意識レベルを記録し、嘔吐や下痢の回数を家族と共有しながら観察を続けます。
また、毎日の体重測定は補液効果を評価する上で非常に有効です。看護師は数値だけでなく、子どもの活気や表情の変化も含めて判断する視点を持つことが求められます。
家族への説明と安心の提供
家族に対しては、脱水の危険性を伝えると同時に、家庭でできる予防と観察の方法をわかりやすく説明します。
「水分は一度にたくさん飲ませるのではなく、少しずつ何回も与えること」
「尿が極端に少ない、ぐったりしている時はすぐに受診が必要であること」
このような具体的なアドバイスは、不安を和らげると同時に適切な判断につながります。
臨床から学ぶ事例
2歳の子どもが急性胃腸炎で入院し、2日間で体重が1.2kg減少しました。尿量も少なく、眼窩陥没や口唇乾燥が認められ、中等度脱水と判断されました。輸液補正を行ったところ、翌日には尿量が増え、活気が戻り、経口摂取が再開できました。
このケースは、体重変化と尿量の観察が早期対応につながり、回復を早めた好例といえます。
看護実践の振り返り
小児の脱水は短時間で重症化するため、看護師は観察と早期対応を常に意識する必要があります。水分管理は「少しずつ、こまめに」という家族支援の工夫から、輸液管理の正確さまで幅広い視点が必要です。
子どもの命を守る看護は、脱水を防ぐ観察と適切な水分管理、そして家族の安心を支えるコミュニケーションから成り立っています。
参考文献
- World Health Organization. (2013). Pocket book of hospital care for children: guidelines for the management of common childhood illnesses. 2nd edition. https://www.who.int/publications/i/item/9789241548378
- Moritz, M. L., & Ayus, J. C. (2015). Maintenance Intravenous Fluids in Acutely Ill Patients. New England Journal of Medicine, 373(14), 1350–1360. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26422723/
- American Academy of Pediatrics. (2018). Clinical Practice Guideline for the Diagnosis and Management of Dehydration in Children. Pediatrics, 142(3), e20183083. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30177508/