術後に見られる心の変化を理解する

手術を受けた小児では、身体の回復だけでなく、心の反応にも細やかな配慮が必要です。特に「せん妄」は、幻覚や混乱、不安定な行動として現れやすく、家族や医療者にとって大きな不安材料となります。
看護師が早く気づき、環境調整や家族支援を行うことで、子どもの安心と回復を大きく助けることができます。


小児せん妄の特徴を知っておく

  • 出現時期は術後1〜3日目が多い
  • 幻覚・妄想、徘徊や興奮などが見られる
  • 日中は落ち着いていても、夕方から夜に悪化しやすい(日内変動)
  • 麻酔薬や鎮痛薬の影響、感染や睡眠不足、不安がきっかけになることが多い

せん妄を見抜くための観察視点

  • 「いつもと違う泣き方」や「落ち着きのなさ」に注意
  • 夜間の覚醒や昼夜逆転を観察する
  • 顔つきや視線が合わないときは要注意
  • 家族からの「普段と違う」という訴えを重視する

他の症状との区別も大切

  • 疼痛:鎮痛後も落ち着かないなら、せん妄の可能性あり
  • 低酸素:SpO₂や呼吸状態を確認
  • 低血糖・電解質異常:採血で確認が必要
  • 薬の副作用:鎮静薬やオピオイドの使用状況を振り返る

看護師ができるせん妄ケア

環境を整える

  • 昼は明るく、夜は静かにして睡眠リズムを整える
  • ナースコールや機械音はできるだけ減らす
  • 家族の付き添いを可能な範囲で活用する

子どもを安心させる工夫

  • 短くやさしい言葉で声をかける
  • ぬいぐるみや絵本など子どもの好きなものをそばに置く
  • 興奮時は抑制ではなく、まず環境と声かけで落ち着かせる

薬物療法が必要になる場合

非薬物的ケアで落ち着かないとき、医師が鎮静薬を検討することがあります。
看護師は投与後、意識・呼吸・循環の変化を丁寧に観察し、副作用に注意します。


家族への支援と安心の提供

  • 「術後には一時的に混乱が出ることがあります」と事前に伝える
  • 実際に起きたときは「薬や麻酔の影響で多くは一時的なもの」と説明し安心を与える
  • 「そばにいるだけで十分支えになっています」と伝え、家族の不安や罪悪感に寄り添う

SBARでの報告例

S:「6歳、術後2日目の夜から興奮と幻覚が出現」
B:「オピオイド持続投与中。発熱なし、SpO₂ 95%」
A:「夜間に症状が強く、せん妄の可能性が高い」
R:「環境調整は実施済み。薬物療法の要否について医師に確認したい」


ケースで学ぶ実践例

開腹術後の7歳児が、夜間に「怖い人がいる」と泣き叫び、ベッドから降りようとした。家族が抱きしめて声をかけると安心し、翌朝には症状が軽快。
家族の関わりと安心できる環境が、せん妄の最大の治療薬になることを示す例。


看護実践の振り返り

小児の術後せん妄は珍しいことではなく、夜間に出やすい特徴があります。
看護師は早期に発見し、環境調整や家族支援を第一に行い、必要に応じて医師と連携して薬物療法を検討します。
子どもの安心と家族の信頼を支えることが、回復への大きな力になります。