術後に寄り添う看護の大切さ
小児が手術を受けたあとは、身体の回復を見守るだけでなく、心のケアにも目を向けることが求められます。術後の痛みが強いと、呼吸が浅くなったり、離床が進まず合併症を招くことがあります。また、「手術は怖い」「病院はつらい場所」という記憶が残ってしまうと、その後の医療体験にも影響します。
看護師は、疼痛管理と合併症予防の両立をめざし、子どもと家族の安心を守る役割を果たしていきます。
小児の術後疼痛を正しく評価する
痛みの訴え方は年齢によって異なり、自己申告ができる子どもばかりではありません。乳児では泣き方や表情、手足の動きなどから痛みを推測する必要があります。FLACCスケールは、顔・足・活動・泣き・慰めの5項目を観察して評価するため、乳児の疼痛把握に有効です。幼児や学童では「顔の表情を示すスケール」を使い、学童以上では数値で表すNRSが適しています。
重要なのは、「泣いている=必ずしも痛い」ではないという点です。恐怖や不安によっても泣くことがあるため、表情・態度・言葉のすべてを合わせて判断します。
薬を用いた痛みのコントロール
小児の疼痛管理には、アセトアミノフェンやNSAIDs、オピオイドなどが用いられます。年齢や体重に応じて慎重に量を調整することが不可欠です。学童期以降では、PCA(自己調整鎮痛法)が導入されることもあり、子ども自身が痛みを感じたタイミングで投与できる仕組みは心理的な安心にもつながります。
薬の投与後は、呼吸や意識の変化、発疹や吐き気といった副作用にも注意しながら観察を続けることが求められます。
薬以外でできるケアの工夫
小児の術後ケアでは、薬物療法に加えて非薬物的な支援も重要です。体位を変えることで痛みが和らぐこともあれば、温罨法で筋肉の緊張が緩み、快適さが増すこともあります。
また、子どもの気持ちを「痛み」からそらす工夫も有効です。絵本を読んだり、タブレットや動画を見たり、シャボン玉やおもちゃで気を紛らわせることができます。何より大切なのは、家族の抱っこや声かけが子どもに安心感を与えるという点です。医療者のケアと家族の温もりが合わさることで、痛みの感じ方は大きく変わります。
術後合併症を防ぐために必要な視点
呼吸器への影響を予防する
手術後は、麻酔や痛みの影響で深呼吸ができず、無気肺や肺炎のリスクが高まります。看護師は、体位変換や咳の促し、吹き戻し玩具を使った深呼吸の練習を支援し、呼吸を整えるサポートを行います。
循環や体液の変化を見逃さない
出血や循環不全は、術後の早期合併症として注意すべき項目です。ドレーンの排液量や尿量を観察し、皮膚の色や末梢循環(CRT)も確認します。小さな変化を早く気づくことが大切です。
創部の感染を防ぐ
傷口の発赤や腫れ、熱感、滲出液がないかを毎日確認し、清潔を保ったドレッシング交換を徹底します。子どもは動きが活発なため、ルートやガーゼが外れやすい点にも注意が必要です。
消化器のトラブルに注意する
術後は腸の動きが弱まり、便秘や嘔吐を引き起こすことがあります。排ガスや排便があるかを確認し、食事再開後の嘔気や腹部膨満にも注意を払いましょう。
精神的な不安への寄り添い
手術を受けた子どもは、不安や恐怖から夜泣きや分離不安を示すことがあります。看護師は家族の付き添いを調整し、子どもが安心して休める環境を整え、プレパレーションや遊びを取り入れながら不安をやわらげます。
家族への説明と支援のあり方
術後看護において、家族の存在は欠かせません。看護師は、観察のポイントを家族にもわかりやすく伝えることが大切です。
「顔色が悪くないか」「呼吸が浅くないか」「おしっこの量が減っていないか」「傷口が腫れていないか」など、家庭でも確認できる点を示すと、家族も安心してケアに参加できます。
また、子どもに「どんな痛み?」「チクチク?ズキズキ?」と年齢に合った言葉を選んで声をかけるよう伝えると、より正確に疼痛を表現してもらえます。退院時には、創部の観察方法や発熱・排尿異常など再受診が必要なサインを説明し、入浴や運動の再開時期についてもアドバイスします。
実践から学ぶケース
開腹術後の5歳児は、痛みのためにベッドから動こうとせず泣き続けていました。看護師は鎮痛薬を調整するとともに、家族と協力して「抱っこで一緒に歩いてみよう」と声をかけました。最初は不安げでしたが、一歩ずつ進むうちに笑顔が見られ、翌日からは自分から歩くようになりました。
この経験は、疼痛管理と心理的支援、家族の関わりが回復促進の大きな力になることを示しています。
看護実践
小児の術後看護は、疼痛管理と合併症予防が両輪です。
年齢に応じたスケールで痛みを正しく評価し、薬物と非薬物療法を組み合わせて支援します。呼吸・循環・感染・消化器・精神面を多角的に観察し、家族と情報を共有しながら回復を支えることが重要です。