不規則なシフト勤務、心身にかかる大きな負荷。これだけのハードワークに見合うだけの「給与(年収)」を得られているだろうか、と疑問に思うのは当然のことです。
看護師が給与アップを目指すには、感情的に不満を述べるのではなく、給与が決まる「仕組み」を理解し、「戦略的」に行動することが不可欠です。
この記事では、あなたの給与を上げるための「2つの主要な道筋」と、それぞれに必要な具体的な行動、そして給与アップ転職で失敗しないための「最大の注意点」を、信頼できる情報に基づき徹底的に解説します。
大前提:あなたの「給与明細」を徹底解剖する
給与アップの戦略を立てる前に、まず「現状把握」が必要です。あなたはご自身の給与明細を正確に読み解けていますか?
見るべきは「総支給額」ではなく「基本給」
最も重要な数字は、毎月の「総支給額(手取り額)」ではありません。「基本給」の額です。 なぜなら、賞与(ボーナス)や将来の退職金は、手当を含んだ総支給額ではなく、この「基本給」を基準に「基本給の〇ヶ月分」と計算される法人が圧倒的に多いからです。この数字が、あなたの「基礎価値」となります。
どのような「手当」で構成されているか
あなたの月給は、どのような手当で構成されていますか。毎月必ず支給される「資格手当」「役職手当」といった固定手当と、勤務実績によって変動する「夜勤手当」「残業手当(時間外手当)」といった変動手当を分けて把握してください。
自分の給与を「市場相場」と比較する
把握したあなたの「基本給」と「年収(賞与含む)」は、市場の相場と比べて高いでしょうか、低いでしょうか。 看護師専門の求人サイトや転職エージェントの情報をリサーチし、あなたの「経験年数」「地域」「スキル」が、市場でどれくらいの価値(給与相場)を持つのかを客観的に把握することが戦略の第一歩です。
方法1:「今の職場」で給与アップを目指す(内部昇給)
一つ目の方法は、現職に留まったままで給与を上げる、最も堅実な道です。これには主に3つの戦略があります。
戦略1:昇進・昇格(役職手当を得る)
最も分かりやすい給与アップの方法です。スタッフナースから、チームリーダー、看護主任(副師長)、そして看護師長(管理者)へと昇進(昇格)するキャリアパスです。 現場の実務に加えて、スタッフの指導や労務管理(シフト作成)、病棟運営といった責任を負うことになるため、その対価として「役職手当」が支給され、基本給のテーブルも上がるため、給与は確実に増加します。
戦略2:上位資格の取得(資格手当を得る)
あなたの専門性を高め、それを手当として還元してもらう方法です。 例えば、日本看護協会が認定する「認定看護師(CN)」や「専門看護師(CNS)」、あるいは各学会が認定する「呼吸療法認定士」「糖尿病療養指導士」などの高度な専門資格を取得することです。 ただし注意点として、これらの資格を取得しても、必ず給与が上がるわけではありません。病院側がその資格を評価し、「資格手当」として制度化しているかどうかを、取得前に必ず確認する必要があります。
戦略3:上司(師長)との「給与交渉」
現在の職場で明確な「実績」を上げている場合、上司との「給与交渉」も選択肢となります。
交渉のタイミング
最も適切なタイミングは、あなた個人の「人事考課(評価面談)」の時期です。やみくもに「給与を上げてください」と要求するのではなく、評価面談の場で、自身の実績を提示した上で、来年度の処遇について相談するのが最もスムーズです。
交渉の材料(エビデンス)
交渉を成功させるには、感情(「こんなに頑張っているのに」)ではなく、客観的な「証拠(エビデンス)」が必要です。「私はこの1年で〇〇という業務改善を提案し、部署の残業時間を〇%削減した」「プリセプターとして〇名の新人を指導し、全員の独り立ちに貢献した」といった具体的な「実績」と、それが昇給に値する理由を論理的に説明する準備が不可欠です。
方法2:「より高い場所」へ環境を変える(転職)
現在の職場の給与テーブル(昇給カーブ)に限界を感じた場合、あるいは内部での昇給が期待できない場合、給与アップを実現する最も早くて確実な方法が「転職」です。
なぜ転職が給与アップの近道なのか
病院が定める定期昇給は、多くの場合、年に数千円程度です。しかし、転職市場におけるあなたの「市場価値」は、それ以上に高騰している可能性があります。 転職とは、あなたの現在の価値を「今の職場の給与テーブル」から解放し、「現在の市場相場」で再評価してもらう行為です。あなたのスキルと経験を高く評価し、より良い条件を提示する職場へ移ることで、年収を数十万円単位で一気に引き上げることが可能になります。
給与水準が高い職場(フィールド)とは
一般的に、以下の条件を持つ職場は給与水準(特に基本給や賞与)が高い傾向にあります。
1. 大規模・特定機能病院・大学病院
経営体力があり、高度な医療(例:急性期、手術、特定集中治療)を提供している大規模病院や大学病院、がんセンターなどの専門病院は、全体の給与水準が高い傾向にあります。
2. 需要が逼迫しているエリア(都市部)
地方よりも首都圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)や関西圏、その他大都市圏は、看護師の需要が供給を上回る(人材獲得競争が激しい)ため、給与水準が高く設定されています。
3. 自由診療(美容クリニックなど)
公的な医療保険が適用されない「自由診療」をメインとする職場、特に美容クリニックなどは、利益率が非常に高いビジネスモデルであるため、看護師の給与も一般病院に比べて突出して高く設定されているケースが多くあります。ただし、求められるスキルは看護技術よりも「接遇スキル」や「営業感覚」にシフトします。
転職で給与アップを目指す際の「最大の注意点」
ただし、「転職=必ず年収アップ」ではありません。給与アップを目指したはずが、結果的に「年収が下がった」という失敗に陥らないため、以下の「罠」を必ず知っておいてください。
注意点1:「夜勤手当」がなくなる働き方
看護師の給与がいかに「夜勤手当」に支えられているかを再認識する必要があります。 もしあなたが「働きやすさ」を重視し、クリニックや健診センター、保育園といった「日勤のみ」の職場に転職した場合、これまで毎月数万円(例:4~8万円)支給されていた夜勤手当がゼロになります。 その結果、たとえ基本給が少し上がったとしても、年収総額としては「大幅にダウンする」ケースがほとんどです。これは「失敗」ではなく、ライフスタイルとの「トレードオフ(交換条件)」であることを理解する必要があります。
注意点2:「基本給」と「初年度賞与」の罠
これは最大の注意点です。「月給35万円」という求人票だけを見て転職を決めてはいけません。 必ず「基本給はいくらか」を確認してください。もし基本給が低く、手当で月給を高く見せている求人だった場合、賞与(ボーナス)が想定より著しく低くなるリスクがあります。
また、転職「初年度」の年収は必ず下がります。なぜなら、多くの病院では賞与に「算定期間(例:夏の賞与は、前年10月~当年3月まで在籍)」という条件があるためです。4月に入職した場合、夏の賞与は「支給対象外(ゼロ)」または「寸志(数万円)」となるためです。
注意点3:退職金(勤続年数)のリセット
長期的な視点では、退職金の算定基準となる「勤続年数」が、転職によって「ゼロ」にリセットされることも考慮に入れる必要があります。
自分の「価値」を正しく評価し、納得のいくキャリアを築くために
看護師の給与アップは、単に待っていれば実現するものではありません。それは、あなた自身の専門性を高める「自己投資(資格取得や昇進)」か、あるいはあなたの価値を正しく評価してくれる「市場(転職)」へ、自ら行動することによってのみ達成されます。
まずはご自身の給与明細と市場相場を比較し、あなたの持つ「価値」が正当に評価されているかを見極めることから始めてください。

