看護師の採用面接は、単なる知識や技術の確認の場ではありません。それは「患者さんやそのご家族が、安心して命を預けられる人物か」そして「多忙なチーム医療の中で、円滑に連携できる人物か」を見極める場です。

面接官は、あなたの言葉遣いや振る舞い、身だしなみの一つひとつを通して、あなたの「看護師としての適性」を判断しています。

この記事では、転職(中途採用)であれ新卒であれ、看護師の面接において絶対に押さえておくべきマナーを、「なぜそれが必要なのか」という医療現場の視点(信頼性)に基づいて、準備から退室まで徹底的に解説します。


なぜ看護師の面接で「マナー」が最重要視されるのか

一般的な職種以上に、看護師の面接でマナーが重視されるのには明確な理由があります。面接でのあなたの姿は、そのまま現場での姿として評価されるからです。

1. 「清潔感」が業務(感染対策)の基本であるため

面接時の服装の乱れや、派手なメイク、整えられていない頭髪は、「だらしない人」という印象を与えるだけでなく、「衛生観念・感染対策への意識が低い人」という致命的な評価に直結します。清潔感は、看護師の資格以前の必須条件です。

2. 「患者・家族対応」の適性を見るため

面接での態度は、そのまま患者さんやご家族への態度として見られます。面接官の目を見て話せない、暗い表情でボソボソと話す、言葉遣いが乱暴である、といった姿は、「この人に不安な患者さんを任せられない」と判断されます。

3. チーム医療の「協調性」を判断するため

看護業務は、医師、薬剤師、同僚看護師など、多職種との連携(チーム医療)で成り立っています。面接官の話を遮ったり、一方的に話し続けたり、的外れな回答をしたりすると、「傾聴力がない」「コミュニケーションコストが高い」と判断され、チームワークを乱す可能性を懸念されます。


【準備編】面接前に完了すべきマナー・チェックリスト

面接は、会場に向かう前から始まっています。準備不足は必ず態度に出てしまいます。

1. 服装:スーツが基本(転職者・新卒共通)

看護師の面接は、新卒・転職者を問わず、スーツ(リクルートスーツまたはビジネススーツ)が絶対の基本です。

  • スーツ: 色は黒、濃紺、チャコールグレーなど落ち着いた色。シワや汚れがないか確認します。
  • インナー: 白のブラウスまたはカットソー。シワがなく、胸元が開きすぎていないもの。
  • ストッキング: 肌色(ナチュラルベージュ)が基本。柄や黒はNGです。予備を必ずバッグに入れておきましょう。
  • 靴: 黒のシンプルなパンプス(ヒールは3〜5cm程度)。汚れを拭き取っておきます。

2. 身だしなみ:「清潔感」の徹底

前述の通り、看護師の面接で最も重要なポイントです。

  • 髪: 長い髪は必ず一つにまとめます(シニヨンやお団子が望ましい)。前髪が目にかからないよう、ピンで留めます。色は黒か、暗い茶色までが許容範囲です。
  • メイク: 「ノーメイク」も「派手なメイク」もNGです。健康的で明るい印象を与えるナチュラルメイクを心がけます。
  • 爪: 絶対に短く切ります。 マニキュア(ネイルアート、ジェルネイル)は厳禁です。透明なクリアコートも避けた方が無難です。
  • アクセサリー: 結婚指輪以外は、すべて外します。
  • 匂い: 香水や匂いの強い柔軟剤はNGです。医療現場では禁忌であることを理解しましょう。

3. 持ち物:A4サイズのバッグと必要書類

  • バッグ: A4サイズの書類が折らずに入る、黒や紺のビジネスバッグ(床に置いたときに自立するもの)。
  • 必要書類: 応募書類のコピー、募集要項、筆記用具、病院(施設)の資料・地図、看護師免許証のコピー(または原本)。

4. 時間厳守:5〜10分前到着のルール

  • 遅刻は論外です。ただし、早すぎる到着(15分以上前)もNGです。面接官には他の業務があり、対応準備ができていないため、逆に迷惑をかけてしまいます。
  • 指定時刻の5〜10分前に受付に到着するのが社会人のマナーです。

5. WEB面接(オンライン)の場合

近年増えているWEB面接でも、基本マナーは対面と同じです。

  • 服装: 対面と同じく、スーツを着用します(上半身だけでなく下も)。
  • 環境: 静かで、背景が整理整頓された場所(白い壁などがベスト)を選びます。バーチャル背景は避けましょう。
  • 機材: PC、ネット回線、照明(顔が明るく映るか)を事前にテストします。
  • アカウント名: Zoomなどを使用する場合、アカウント名がニックネームになっていないか確認し、必ず本名(フルネーム)に変更しておきます。

【受付・入室編】第一印象を決める行動マナー

病院(施設)に入った瞬間から、あなたは「面接を受けている」と意識してください。

1. 受付での振る舞い

コート類は建物の外で脱ぎ、畳んで腕にかけます。受付では、「本日〇時から面接のお約束をいただいております、〇〇(フルネーム)と申します。採用ご担当の〇〇様(不明なら「ご担当者様」)はいらっしゃいますでしょうか」と、明るくハキハキと伝えます。

2. 控室(待合室)での姿勢

待っている間が最も見られています。絶対にスマートフォンを触ってはいけません。 姿勢を正し、持参した資料に静かに目を通すか、まっすぐ前を見て静かに待ちます。

3. 入室時のマナー(ノックは3回)

  • 名前を呼ばれたら、ドアを3回ノックします。(日本ではビジネスシーンのノックは3回が標準です)
  • 「どうぞ」と声がかかったら、「失礼いたします」と言ってドアを開けます。
  • ドアを閉める際は、後ろ手で閉めず、ドアの方に向き直ってから静かに閉めます。
  • 面接官の方を向き直し、「〇〇(フルネーム)と申します。本日はよろしくお願いいたします」と述べ、深くお辞儀(30度〜45度)をします。

4. 着席のタイミングと座り方

  • 椅子の横(または前)に立ち、面接官から「どうぞお掛けください」と言われてから、「失礼いたします」と一礼して着席します。
  • バッグは椅子の脚元(利き手側)の床に、倒れないように置きます。
  • 座る際は、背もたれに寄りかからず、背筋を伸ばして座ります。女性は膝を揃え、手は両膝の上で重ねます。

【面接中編】「聞く姿勢」と「話し方」のマナー

面接官が最も見ているのは、会話のキャッチボール(=チーム医療の適性)です。

1. 視線と表情(マスク着用時)

  • 相手の目(または眉間・鼻のあたり)をしっかりと見て話します。
  • 特に現在はマスク着用が多いため、「目で笑う」意識が重要です。口元が見えなくても、明るい表情は目の形で伝わります。

2. 「はい」という返事と「相槌(あいづち)」

  • 面接官の質問には、必ず「はい」と明瞭な返事をしてから回答を始めます。
  • 相手が話している間は、無表情で聞くのではなく、適度に「相槌」を打ち、深く頷きながら「理解している」という姿勢を見せます。これが「傾聴力」の評価につながります。

3. 言葉遣い:「御院(おんいん)」の使い方

  • 転職者でも間違えやすい、相手の呼び方です。必ず統一しましょう。
  • 病院の場合: 「御院(おんいん)」(話し言葉)、「貴院(きいん)」(書き言葉)
  • 介護施設の場合: 「御施設(おんしせつ)」(話し言葉)、「貴施設(きしせつ)」(書き言葉)
  • 企業(産業看護師)の場合: 「御社(おんしゃ)」(話し言葉)、「貴社(きしゃ)」(書き言葉)

4. NGな言葉遣い

「〜っす」「〜みたいな」「えーっと」「あのー」といった学生言葉や、意味のない間延びした言葉は厳禁です。自信がなくても、ゆっくりと「です・ます」で丁寧に話すことを心がけてください。


【退室編】最後まで気を抜かないクロージング

面接が終わっても、建物を出るまでは面接です。

1. 面接終了のお礼と退室の挨拶

  • 面接官から「面接は以上です」と告げられたら、座ったまま「本日は、お忙しい中お時間をいただき、誠にありがとうございました」と深く一礼します。
  • 立ち上がり、椅子の横で「失礼いたします」と再度一礼します。
  • ドアの前まで進み、面接官の方に向き直り、最後にもう一度「失礼いたしました」と丁寧に挨拶(お辞儀)をしてから退室します。

2. 建物を出るまで

退室した瞬間にネクタイを緩めたり、スマートフォンを取り出して誰かに電話をかけたりしてはいけません。病院の敷地を出るまでは、他の職員や患者さんから見られている意識を持ちましょう。


【転職者・新卒別】特に注意すべきマナーの違い

マナーの基本は共通ですが、面接官が期待している人物像が異なります。

新卒者に求められること

新卒者はスキルがないのが前提です。そのため、マナー面では「元気の良さ」「素直さ」「学習意欲」が評価されます。少々ぎこちなくても、明るくハキハキとした挨拶と返事ができれば、好印象につながります。

転職者(中途採用)に求められること

転職者は即戦力(または近い将来の戦力)として期待されます。元気さよりも「落ち着き」「社会人としての常識」「論理性」が求められます。 一番のNGマナーは、前職の経験を自慢したり、前職のやり方を基準にして面接先のやり方を批判したりすることです。どれだけスキルがあっても、「謙虚さ」がなければチーム医療は務まらないと判断されます。


マナーとは相手への「配慮」です

看護師の面接マナーとは、堅苦しいルールの暗記ではありません。それは、「相手(面接官)に余計なストレスを与えない」という配慮であり、ひいては**「患者さんに不安を与えない」という看護の基本姿勢**そのものです。

完璧な準備を行い、あなたの誠実さと熱意を、洗練されたマナーに乗せて伝えてください。