看護師の採用面接において、ほぼ100%の確率で一番最初に求められるのが「自己紹介」です。「では、まず1分ほどで自己紹介をお願いします」——この冒頭のやり取りが、面接全体の第一印象と流れを決定づける、最も重要な瞬間です。

しかし、多くの看護師(特に転職者)が、この「自己紹介」と「自己PR」を混同してしまい、失敗するケースが後を絶ちません。

この記事では、新卒・転職を問わず、看護師の採用面接で面接官に「この人の話をもっと聞きたい」と思わせる、**信頼性の高い「自己紹介の話し方」**の構成要素と、具体的なケース別の例文を徹底的に解説します。


「自己紹介」と「自己PR」は全く違います

まず、この2つの根本的な違いを理解することが、面接対策の第一歩です。これらを混同すると、面接官は「質問の意図が理解できない人」という評価を下します。

「自己紹介」とは:あなたが誰であるかの「要約(インデックス)」

  • 目的: 挨拶と、自分が何者か(氏名、略歴)を簡潔に伝えること。
  • 時間: 1分以内。
  • 内容: 事実(ファクト)の要約。面接官が「なるほど、こういう経験をした人ね。では次に〇〇を聞いてみよう」と、次の質問の材料(目次)を提供することが役割です。

「自己PR」とは:あなたの強みを売り込む「プレゼン」

  • 目的: 自分の強みやスキルが、いかに入職後に役立つかを具体的に売り込むこと。
  • 時間: 面接の中盤で「では、自己PRをどうぞ」と別途時間を設けられます。
  • 内容: 感情や熱意、具体的なエピソードを交えたプレゼンテーションです。

自己紹介でいきなり自己PR(「私の強みは〇〇で、前職ではこんな成果を上げ…」)を長々と始めてしまうのが、最も典型的な失敗例です。


看護師の自己紹介は「1分間」で組み立てる

自己紹介の理想的な長さは、転職者・新卒者を問わず「1分間」です。

なぜ1分なのか?

人間の集中力が続く時間には限界があります。面接官は、1分以上続く要領を得ない話(特にそれが要約であるべき自己紹介)を聞き続けることにストレスを感じます。 1分間(文字数にして約300字程度)で、自分の経歴と要点を簡潔にまとめる能力は、「患者さんや医師に必要な情報を簡潔に報告する能力(=看護師の必須スキル)」として高く評価されます。


【テンプレート】1分で伝える「自己紹介」の構成要素

信頼される1分間の自己紹介は、以下の4つの要素で構成されています。この順番通りに組み立ててください。

  1. 挨拶と氏名: (面接の機会への感謝と、フルネーム)
  2. 略歴: (現在の状況と、これまでの経験の要約。※ここがケース別に最も変わる部分)
  3. 応募先への簡単な関心: (なぜここに応募したかの簡単な「つなぎ」。詳細な志望動機は別途伝えます)
  4. 締めの挨拶: (「本日はよろしくお願いいたします」)

【ケース別】自己紹介の「話し方」と例文

この4つの要素を使い、看護師の3つの代表的なケース別の例文と、話す際のポイントを解説します。

ケース1:転職(中途採用)看護師の場合

【ポイント】 面接官が即戦力として最も知りたいのは「何科で、何年の経験があるか」です。経験した診療科と年数、主な役割(リーダー経験など)を簡潔に盛り込みます。

【例文】 「(1. 挨拶)本日は、面接のお時間をいただき、誠にありがとうございます。〇〇 〇〇(フルネーム)と申します。

(2. 略歴)私は、看護師免許を取得後、〇〇病院の外科・消化器外科病棟にて6年間、急性期の看護を経験してまいりました。直近の2年間は、チームリーダーとして新人指導や業務改善にも携わっております。

(3. 関心)これまでの急性期での経験を活かしつつ、今後は貴院(※)が力を入れておられる〇〇(例:地域包括ケア、在宅医療、緩和ケアなど)の分野で、患者さんとより深く関わりたいと考え、応募いたしました。

(4. 締め)本日は、どうぞよろしくお願いいたします。」

(※病院は「御院(おんいん)」、施設は「御施設(おんしせつ)」、企業は「御社(おんしゃ)」と呼びます)

ケース2:新卒看護師の場合

【ポイント】 経験がないため、「熱意」「学習意欲」「なぜこの病院を選んだか」を簡潔に伝えます。実習での経験を簡潔に盛り込むのも有効です。

【例文】 「(1. 挨拶)はじめまして。〇〇大学・看護学部から参りました、〇〇 〇〇(フルネーム)と申します。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。

(2. 略歴)私は学生時代、〇〇(例:小児科)の実習において、子どもたちとの関わりの中で看護のやりがいを深く学びました。

(3. 関心)貴院のインターンシップに参加した際、先輩看護師の皆様が患者さん一人ひとりに寄り添う姿勢に深く感銘を受け、私もぜひこの環境で看護師としての第一歩を踏み出したいと強く思い、応募いたしました。

(4. 締め)一日も早く貴院に貢献できるよう、精一杯努力する所存です。本日は、どうぞよろしくお願いいたします。」

ケース3:ブランク(復職)がある看護師の場合

【ポイント】 ブランク(離職期間)がある場合、その事実に触れないのは不自然です。ただし、ネガティブではなく「事実」として簡潔に伝えます。謝罪する必要はなく、復職への意欲を明確に示します。

【例文】 「(1. 挨拶)本日は、面接の機会をいただき、ありがとうございます。〇〇 〇〇と申します。

(2. 略歴)私は、看護師として〇〇病院の循環器内科で5年間勤務しておりました。その後、出産と育児のために3年間、臨床現場を離れておりましたが、子どもの小学校入学の目処が立ちましたため、看護師として復職することを決意いたしました。

(3. 関心)臨床を離れていた期間も、最新の知識習得のため研修などに参加しておりました。貴院の充実した復職支援プログラムのもとで、改めて地域医療に貢献したいと考え、応募いたしました。

(4. 締め)本日は、どうぞよろしくお願いいたします。」


【話し方】好印象を与える技術的なコツ

自己紹介の内容(スクリプト)が完璧でも、「話し方」が伴わなければ評価は半減します。看護師に求められる「信頼感」を与える話し方のコツです。

1. 「ハキハキと明るく」は医療現場の基本

面接は緊張するものですが、暗い声や小さな声は「患者さんへの対応」や「電話応対」の場面を連想させ、マイナス評価になります。 意識的に口角を上げ、いつもより少しだけ高いトーンで、「ハキハキと」話すことを心がけてください。

2. 丸暗記ではなく「キーワード」で覚える

例文を丸暗記すると、棒読みになりがちで、途中で忘れた時に頭が真っ白になります。 覚えるのは文章全体ではなく、「6年・外科」「地域包括ケア」「よろしく」といった「キーワード」だけです。キーワードをつなげて話す練習をすれば、本番でも自然な会話として伝わります。

3. 語尾を「です・ます」で明確に終える

「〜でしたので、〜みたいな感じで…」のように、語尾を曖昧に伸ばしたり、自信なさげに消え入るような話し方は厳禁です。 「〜です」「〜いたしました」「〜と考えております」と、一文一文を明確に「。」で終える話し方を徹底してください。それだけで論理性と信頼感が格段に向上します。


自己紹介は「面接の設計図」です

自己紹介は、単なる挨拶ではありません。それは「私はこういう人間です。面接では私のこういう部分に注目して質問してください」と、あなたが面接官に提示する「面接の設計図(インデックス)」です。

完璧な1分間の準備が、その後の全ての質疑応答をスムーズにし、面接官に「この人となら一緒に働きたい」と思わせる第一歩となります。