看護師の転職活動において、求人票は次のキャリアを選ぶための最も重要な情報源です。しかし、求人票には魅力的な言葉が並ぶ一方で、独特の専門用語や、誤解を招きやすい表現も多く含まれています。
「給与がすごく高く見えるけれど、本当だろうか?」 「休日がしっかり取れるかどうかが分からない」
このような疑問を抱えたまま入職すると、「こんなはずではなかった」という深刻なミスマッチにつながりかねません。
この記事では、看護師が転職で失敗しないために、求人票に記載されている言葉の「本当の意味」を、労働基準や業界の慣習といった信頼できる情報に基づき、項目ごとに徹底的に解説します。
求人票は「広告」であり「契約情報」である
まず大前提として、求人票には2つの側面があります。ひとつは、病院や施設の魅力を伝える「広告」としての側面。もうひとつは、給与や休日など、労働条件を明示する「契約情報」としての側面です。
私たちは、この2つを冷静に見分ける「目」を持つ必要があります。特に注意すべき「給与」と「休日」の2大項目から見ていきましょう。
【最重要】「給与欄」のワナを見抜く
給与欄は、最も誤解が生まれやすい項目です。数字の大きさに惑わされず、その「内訳」と「根拠」を確認することが信頼できる見方です。
注目すべきは「月給」ではなく「基本給」
最も重要な数字は「基本給(きほんきゅう)」です。
「月給(げっきゅう)」とは、基本給に加えて、毎月固定で支払われる諸手当(資格手当、役職手当など)を含んだ金額を指します。
なぜ基本給が重要かというと、多くの病院・施設で「賞与(ボーナス)」や「退職金」を算定する際の基準額となるのが、月給ではなく「基本給」だからです。
例えば、以下の2つの求人があった場合を考えます。
A病院:月給28万円(内訳:基本給25万円+資格手当3万円) B病院:月給28万円(内訳:基本給20万円+資格手当3万円+調整手当5万円)
月給は同じ28万円ですが、賞与が「基本給の4ヶ月分」だった場合、A病院は100万円、B病院は80万円となり、年収で大きな差が生まれます。基本給が不自然に低い求人には注意が必要です。
「月給〇〇万円(諸手当含む)」の内訳を確認
「諸手当」には、必ず毎月もらえる「固定手当(資格手当など)」と、変動する「変動手当(夜勤手当、残業手当など)」があります。
「夜勤手当(〇回分含む)」は変動費です
給与欄に「月給32万円(夜勤手当4回分含む)」と記載されている場合、その32万円は「夜勤を4回やった場合」の給与です。もし体調不良や病棟の都合で夜勤が3回になれば、その分の給与は必ず下がります。これは保証された金額ではないことを理解してください。
「月収例」「年収例」は最高モデルケース
「年収例:550万円(看護師・経験5年目リーダー)」といった記載は、あくまで「その職場で最も条件良く働いた場合のシミュレーション(例:夜勤最大回数、残業月20時間、役職手当、賞与満額)」であることがほとんどです。
転職初年度のあなたが、この金額を受け取れる可能性は低いと考え、あくまで参考程度に留めてください。
【休日欄】「週休2日制」と「完全週休2日制」の決定的な違い
給与と並んでトラブルの原因となりやすいのが「休日」の表記です。この2つの言葉は、法的に意味が全く異なります。
週休2日制:月に「1回以上」週2日休みがある制度
「週休2日制」とは、「1ヶ月の間に、週2日の休みがある週が、1回以上あります」という意味です。 つまり、他の週(例えば残り3週間)は休みが1日だけ、という可能性も合法的にあり得ます。これは「毎週2日休める」という意味ではありません。
完全週休2日制:「毎週必ず」2日休みがある制度
こちらが、私たちが一般的にイメージする「毎週2日休み」の制度です。年間を通じて、毎週必ず2日間の休日が保証されます。
最も信頼できる比較指標は「年間休日」
看護師の勤務はシフト制が多いため、「土日休み」という概念が当てはまらないことが多いです。そこで、複数の職場を公平に比較するために最も信頼できる指標が「年間休日」の総日数です。
- 年間休日120日以上:カレンダー通りの土日祝の数に近いです。かなり多い部類に入ります。
- 年間休日110日〜119日:平均的な水準です。
- 年間休日109日以下:休日が少なめであると認識してください。
「4週8休」とは何か
病院の求人票でよく見る表記です。これは「4週間(28日間)の間に、休日が8日ある」という意味です。 1年(52週)で計算すると、休日総数は(52週 ÷ 4週)× 8日 = 104日 となります。これに年末年始休暇などが加わり、年間休日は105日〜110日前後となるケースが多いです。
【勤務時間】2交代制と3交代制の読み方
看護師の働き方を決める重要な要素です。
2交代制のメリット・デメリット
(例:日勤 8:30〜17:30 / 夜勤 16:30〜翌9:30) 勤務時間が長く(例:16時間)、夜勤中の仮眠が前提となります。メリットは、夜勤の回数が少なく(例:月4〜5回)、「夜勤明け+翌日休み」でまとまった休みが取りやすい点です。デメリットは、1回の勤務の拘束時間が長く、体力的負担が大きい点です。
3交代制のメリット・デメリット
(例:日勤 8:30〜17:30 / 準夜勤 16:30〜25:00 / 深夜勤 24:30〜翌9:00) 1回の勤務時間は8時間程度です。メリットは、勤務中の負担が少ないこと。デメリットは、準夜勤から翌日の深夜勤までが短い(「準深」と呼ばれるシフト)など、生活リズムが不規則になりがちで、出勤回数が増える点です。
看護師特有の「隠れたキーワード」をチェックする
給与や休日以外にも、看護師がチェックすべき重要なキーワードがあります。
「オンコール(待機)」の有無と頻度
特にクリニック、訪問看護、手術室(オペ室)の求人では必須の確認項目です。 「日勤のみ」と書かれていても、休日や夜間に緊急呼び出し用の電話(オンコール)を自宅で待機しなくてはならない場合があります。オンコールの手当はいくらか、実際に呼び出される(実働になる)頻度は月何回程度なのかは、生活の質に直結します。
「残業:月平均〇時間」の実態
「残業ほぼなし」「月平均5時間」といった記載には注意が必要です。看護師の業務には、患者さんへの直接ケア以外の「見えない残業」(記録、研修、勉強会、委員会活動)が非常に多く存在します。これらが「自己研鑽」として扱われ、残業時間に含まれていない可能性があります。
「アットホームな職場です」の解読法
これは「広告」の言葉です。本当に雰囲気が良い場合もありますが、裏を返せば「公私の区別が曖昧」「家族的な馴れ合い」を意味する場合もあります。 「みんなで助け合う」という名目で、急なシフト変更の依頼を断りにくい、有給休暇の申請をしにくい、といった雰囲気がないか、面接などで確認する必要があります。
「福利厚生」で見るべきポイント
「福利厚生充実」という言葉だけでなく、具体的な内容を確認します。 看護師にとって特に重要なのは、「託児所(保育所)あり(24時間対応か)」「独身寮・家族寮の有無」「家賃補助(住宅手当)」など、生活に直結する制度です。
求人票は「比較検討」するための資料です
求人票は、第一印象や給与の数字だけで判断してはいけません。「年間休日」という客観的な数字で休みを比較し、「基本給」で賞与や退職金の基準を見抜き、「オンコール」の有無で生活スタイルを想像する。
このように、定められた用語の本当の意味を知ることで、求人票は初めて「あなたの希望と、職場の実態を比較検討できる信頼性の高い資料」となります。あなたの転職活動にお役立てください。