看護師の転職活動における「職場見学」は、求人票だけでは決して分からない職場の実態を知るための、またとないチャンスです。
そして、見学の最後や途中で必ず訪れる「何か質問はありますか?」という時間。これは、単なる疑問解消の場ではありません。それは、あなたが「どれだけ本気でここで働きたいか」という熱意と、あなたの「看護師としての視点」をアピールできる、最後の重要な選考プロセスでもあります。
「特にありません」と答えてしまうのは、最も避けるべき回答です。
この記事では、見学の場であなたの評価を上げ、同時に入職後のミスマッチを防ぐために役立つ「聞くべき質問(OK質問)」と「避けるべき質問(NG質問)」を、信頼できる情報に基づいて具体的に解説します。
なぜ職場見学で「質問」が重要なのか
良い質問を準備することには、2つの大きな目的があります。
1. 入職後のミスマッチを防ぐため
見学は、あなたが職場を「評価」する場でもあります。給与や休日といった条件面だけでなく、職場の実態(忙しさ、人間関係、教育体制など)をあなたの目で確認し、疑問点を解消することが、入職後の「こんなはずではなかった」を防ぎます。
2. あなたの「熱意」と「人柄」を伝えるため
良い質問は、「私はここまで深く考えています」という熱意の証明になります。質問の内容によって、面接官(看護師長や人事担当者)は、あなたが「長く貢献してくれる人材か」「チームに合いそうか」を判断しています。
見学時に聞いてはいけないNG質問例
熱意があっても、質問選びを間違えると逆効果になります。以下の質問は、マナー違反や準備不足と受け取られる可能性が高いため、必ず避けてください。
1. 調べれば分かる質問
病院(施設)の公式ウェブサイトや、事前にもらったパンフレットを読めば分かること(例:「病院の理念は何ですか?」「病床数は何床ですか?」など)を聞くのは、「準備不足」「志望度が低い」と見なされる最大のNG行動です。
2. 給与・待遇・休暇「だけ」の質問
もちろん生活のために重要な情報ですが、見学の場でいきなり「ボーナスはいくらですか?」「有給は全部消化できますか?」といった権利や条件面ばかりを質問すると、「仕事内容より待遇が目当て」という印象を与えてしまいます。これらの質問は、面接の最終段階や内定後の「条件交渉」の場で行うのが適切です。
3. 「はい・いいえ」で終わる質問
(例:「研修はありますか?」)これでは会話が広がりません。「どのような研修制度がありますか?」といった、具体的な内容を引き出す聞き方が必要です。
4. ネガティブな質問
(例:「いじめはありますか?」「辞める人は多いですか?」) あなたが不安に思う気持ちは分かりますが、このような直接的なネガティブ質問は、職場の雰囲気を悪くし、「協調性がないのでは」と警戒されます。これらは、後述する「OK質問」に言い換えるテクニックが必要です。
【質問例1】業務内容・役割について(意欲を見せる)
まずは、入職後に自分がどう働くか、即戦力になれるかをイメージするための質問です。
1日のスケジュールを知りたい
- 「本日見学させていただいた病棟(または外来)での、看護師の1日の大まかなスケジュール(流れ)を教えていただけますか?」
看護体制と役割分担
- 「日中帯と夜勤帯それぞれの、看護師1名あたりの受け持ち患者様の人数(看護配置)はどのようになっていますか?」
- 「看護方式(プライマリーナーシングやチームナーシングなど)と、その中での日々の役割分担(リーダー業務、記録など)について教えてください。」
訪問看護・クリニックの場合
- 「訪問看護の場合、1日あたり平均何件くらい訪問されますか?また、主な移動手段(車、電動自転車など)は何になりますか?」
- 「クリニックの場合、看護師が行う主な検査や処置の範囲を教えていただけますか?」
残業の実態(丁寧な聞き方)
- NG:「残業はありますか?」
- OK:「求人票に月平均〇時間とありましたが、主な残業の理由(例:緊急入院、委員会、記録など)はどのようなものでしょうか?」
【質問例2】職場の体制・雰囲気について(適性を見極める)
長く働くためには、職場の「人」や「環境」が自分に合うかが重要です。
働いている看護師の層
- 「現在、こちらの病棟で働いていらっしゃる看護師の方々の、年齢構成(年代のバランス)や経験年数の層を教えていただけますか?」
- 「子育てをしながら働いていらっしゃる看護師の方はどのくらいいらっしゃいますか?また、両立のためのサポート体制(時短勤務など)はどのように活用されていますか?」
チームの連携方法
- 「看護師間や、医師・他職種との情報共有は、主にどのような方法(カンファレンス、申し送りなど)で行われていますか?」
(NG質問の言い換え)職場の定着率
- NG:「離職率は高いですか?」
- OK:「スタッフの皆様が長く働き続けるために、病院(施設)として力を入れている取り組み(例:福利厚生、メンタルサポート、業務改善など)があれば教えてください。」
【質問例3】教育・キャリアアップについて(成長意欲を見せる)
これは新卒・転職者を問わず、あなたの「向上心」をアピールできる重要な質問カテゴリです。
中途採用者(または新卒)へのサポート体制
- 「私のような中途採用(または新卒)で入職した場合、どのようなオリエンテーションや研修プログラムが用意されていますか?」
- 「プリセプター制度(または中途採用者向けのサポート担当)はありますでしょうか?また、どのくらいの期間サポートしていただけますか?」
院内研修や勉強会
- 「院内(または病棟内)では、どのような勉強会や研修が活発に行われていますか?」
- 「院外研修への参加や、資格取得(認定看護師など)に対する支援制度はありますか?」
キャリアパスについて
- 「こちらで活躍されている看護師の方々は、どのようなキャリアパス(専門性を高めるスペシャリスト、管理職など)を歩まれている方が多いでしょうか?」
【上級編】見学中に「気づいたこと」を聞く
最も評価が高いのは、マニュアル通りの質問ではなく、その場で見学して「気づいたこと」「感じたこと」を元にした質問です。これは、あなたが真剣に見学していた何よりの証拠となります。
良い点に気づいた場合
- 「先ほど拝見した〇〇(例:患者さんへの独自のケア用品、情報共有のボードなど)は、とても素晴らしい取り組みだと感じました。どのような経緯で導入されたのでしょうか?」
疑問に思ったことを深掘りする
- 「スタッフステーションが非常に整理整頓されている印象を受けました。業務効率化のために工夫されている点などがあれば教えていただけますか?」
- 「〇〇の医療機器(または電子カルテ)を導入されていますが、使用感や、看護業務へのメリットを伺ってもよろしいでしょうか?」
質問はあなた自身を映す鏡です
良い質問は、あなたの不安を解消するだけでなく、面接官に「この人は物事を深く考えている」「熱意があり、一緒に働きたい」という強い好印象を与えます。
「特にありません」という言葉は封印してください。事前にしっかりと準備し、あなたの熱意と人柄が伝わる質問で、職場見学という貴重な機会を最大限に活かしてください。