職務経歴書とは

職務経歴書は、履歴書で伝えきれないあなたの看護実務を、配属領域や患者層、処置や機器、シフト運用、チーム連携、改善事例まで含めて立体的に伝えるための文書です。採用側はここから、募集ポジションとの適合性、現場での再現性、そして安全と品質への意識を読み取ります。看護の世界では、病棟種別や入院基本料、看護必要度、受け持ち人数、夜勤体制、電子カルテの運用など、現場固有の情報が説得力を高めます。

履歴書との違いと役割

履歴書が全体像の名刺だとすれば、職務経歴書は臨床の航海記録です。医療機関名だけでなく、急性期や回復期、地域包括ケア、療養、精神科、小児、産科、透析、訪問看護といったフィールド、外来なのか病棟なのか、オペ室やICU、HCU、NICU、救急、透析室といった配属の実態を具体に書くほど、現場のイメージが鮮明になります。採用担当や看護部長、現場師長は、あなたの経験が自院のジョブディスクリプションにどれくらい重なるかを短時間で見極めます。

採用側が見たい三つの軸

最初に問われるのは適合性です。募集領域の患者像とあなたの経験がどこで重なるか、使用ツールや記録方式、夜勤やオンコールの運用、関連する認定や研修の履修が示せると合点がいきます。次に再現性です。数字や手順に落とした実績があると、別環境でも同様に成果を出せる根拠になります。最後に人と現場への姿勢です。安全管理、感染対策、インシデントの振り返り、退院支援や多職種連携の記述から、医療の品質に対する姿勢が伝わります。

構成の基本と書き方の順序

読みやすい職務経歴書は、冒頭に短い職務要約を置き、その後に医療機関情報、配属と業務範囲、手技と機器、記録と指標、成果と改善、連携と教育の流れで整理されています。職務要約では、直近三年の主要領域と強み、代表的な指標改善や役割を三〜四行でまとめます。医療機関情報では病床数や入院基本料、救急搬送件数や平均在院日数などの規模感を置くと、その後の記述が読みやすくなります。

配属と業務範囲をどう描くか

病棟名や外来名、担当患者層、日勤帯と夜勤帯の受け持ち人数、緊急入院や救急対応の頻度、オンコールの有無と回数、看護補助者との業務分担を具体に示します。ケアと処置は、点滴管理、輸血、中心静脈カテーテルやPICC、人工呼吸器やNPPV、術前術後管理、褥瘡対策、血糖コントロール、ストーマケア、終末期ケア、透析シャント管理など、自身が自立して実施できる範囲と、指示のもとで補助してきた範囲を切り分けると評価が安定します。

手技・機器・記録の明記で伝わる専門性

使用してきた電子カルテのメーカーやオーダリングの有無、バーコード投薬、モバイル端末、輸液ポンプやシリンジポンプ、モニター機器など、日常的に扱っているシステムや機材を挙げます。記録方式も重要で、SOAP、フォーカスチャーティング、PNSのペア運用、クリティカルパスの活用など、現場の文化に近い言葉を使うと受け手が読み取りやすくなります。

数字で伝えるコツと小さなフォーマット

看護の仕事は定性的に語られがちですが、数字と期間で補強すると再現性が伝わります。月の夜勤回数、初回対応までの平均時間、転倒転落の発生率、褥瘡予防ケアの遵守率、退院支援のリードタイム、患者満足のアンケート結果やNRSなど、手元の記録と照合して無理のない範囲で示しましょう。状況、役割、行動、結果の順で一例を短く書くと、読む側は現場が思い浮かびます。

安全と品質への取り組みを書く

医療安全は採用判断の土台です。インシデントの共有と是正、ダブルチェックの手順、薬剤のセーフティ、感染対策チームとの連携、マニュアルの改定やチェックリスト整備など、普段当たり前にやっていることほど言葉にしておくと信頼が積み上がります。急変時の初動やラピッドレスポンスの導線、BLSやACLSの訓練履修も事実に基づいて記しておきます。

多職種連携と退院支援を具体化する

患者と家族に寄り添う看護は、医師や薬剤師、リハビリ職のPT・OT・ST、管理栄養士、医療ソーシャルワーカーとの連携で成果が変わります。カンファレンスの頻度や役割、退院調整での情報共有、地域包括ケアへの橋渡し、訪問看護やケアマネとの連絡など、日常のやりとりを短く具体に置くと、コミュニケーションの強みが伝わります。

教育とチームへの貢献を盛り込む

プリセプターやバディの経験、ラダー別の指導、勉強会や事例検討の運営、チェックリストや手順書の更新、1on1の実施などは、部署に与えた良い影響として評価されます。委員会活動やリンクナースの担当、学会発表や院外研修の参加も、継続学習の姿勢を示す材料です。

領域ごとの書き分けのヒント

急性期では救急搬送件数、術後管理、早期離床、デバイス管理の範囲を数字で補強します。回復期や地域包括ケアではADL評価、退院支援、家族支援、在宅への橋渡しの流れを描きます。ICUやHCUでは人工呼吸器や循環管理、鎮静鎮痛、デリリアム予防などのプロトコル運用が伝わる書き方が有効です。透析は穿刺や回路管理、合併症対応、フットケアの知見が鍵になります。訪問看護では一日の訪問件数、移動手段、オンコール、ターミナルケア、24時間体制の運用を具体に。外来やクリニックは採血や点滴、処置、検査説明、診療補助のスピードと正確さ、患者対応の工夫を書き添えます。

働き方とシフトの前提を明確にする

二交替か三交替か、夜勤の月回数、オンコールの頻度、仮眠や休憩の取り方、時短勤務や日勤常勤の経験、直行直帰やICT活用の経験など、生活と両立の設計は重要な情報です。本人希望がある場合は、職務経歴書の末尾やカバーレターで簡潔に触れておくと、面接でのすり合わせがスムーズになります。

電子職務経歴書の体裁と提出の作法

ファイルはPDFで固定し、日付と氏名が分かるファイル名にします。見出しと余白をそろえ、二〜三ページで収めると読みやすくなります。履歴書との表記ゆれを避けるため、西暦か和暦は統一し、病院名や資格名は正式名称で記します。表の多用は避け、本文で流れを作り、必要な箇所だけ簡潔な表で補助すると、ATSや共有時にも崩れにくくなります。

休職やブランクの扱い方

家族の介護や育児、学習期間、体調の回復などの期間は、経緯と学びを短く整理します。例えば、家族介護のために一年間の離職を経験し、復帰に向けてBLSと感染管理の研修を受講、最新の電子カルテ操作をeラーニングで習得など、次に活きる要素を添えると受け手の不安が下がります。

ありがちなつまずきと整え方

病院名や在籍年だけの羅列では、現場のイメージが届きません。配属領域と患者像、代表的な処置、夜勤やオンコールの運用を書き足しましょう。一般論だけの志望理由では説得力が弱くなります。見学や説明会で知った現場の特徴を一文入れるだけで、相互理解が進みます。誤字や日付の不統一は印象に直結します。印刷して声に出して読むと整います。

例文のミニテンプレート

職務要約の例
急性期一般病棟三年、整形外科病棟二年。日勤は受け持ち七〜八名、夜勤は二名体制。術後管理、疼痛コントロール、早期離床を中心に、褥瘡予防の遵守率を前期比二〇パーセント改善。PNSとフォーカスチャーティングでの記録運用に習熟。

成果事例の書き方例
転倒転落が夜間帯に集中していたため、ラウンドのタイミングと環境整備のチェックリストを見直し、夜間の声かけを追加。三か月で発生率を前期比三五パーセント低減。委員会で運用を標準化し、他病棟にも展開。

面接につながる逆質問の準備

職務経歴書に沿って、配属の候補病棟と期待役割、最初の九十日での到達点、夜勤やオンコールの体制、記録方式や電子カルテ、教育体制とラダー運用、退院支援や多職種連携の具体的な流れを質問できるようにしておくと、面接の解像度が上がり、入職後のミスマッチが減ります。

最後にチェックしておきたい要点

配属領域と患者像が一段で分かるか、手技や機器、記録方式の記述があるか、受け持ち人数や夜勤回数などの規模感が伝わるか、安全と品質、教育や連携の取り組みが事例で示されているか、志望先のジョブディスクリプションと重なる言葉になっているか、履歴書と表記が統一されているか。ここまで整うと、あなたの看護がどの現場でも再現できることが、読み手に自然と伝わります。

職務経歴書は、看護の専門性と人への姿勢を、採用側が判断できる形に翻訳するための一枚です。

配属、患者像、処置、体制、記録、数字、改善、連携、教育という流れで、日常の実践を言葉に置き直してみてください。小さな事実の積み重ねがあなたの強みとなり、次の現場での信頼と安心につながります。