自己PRとは
自己PRは、あなたの看護がどの現場でも再現できることを、具体的な事実で伝える文章です。単なる性格紹介ではなく、どんな患者層に、どの体制で、どの手順と判断で価値を出してきたかを、配属領域や記録方式、指標や期間を添えて示します。履歴書が全体像、職務経歴書が詳細だとすれば、自己PRは核となる強みを短く力強く切り出したものです。
志望動機との違い
志望動機は行き先の現場に惹かれた理由と、そこで実現したい未来の話です。自己PRは、これまでの実績と行動特性を根拠に、自分ならではの価値を証明する話です。同じ素材を使っても、志望動機は未来向き、自己PRは過去と現在の証拠に重心を置きます。
看護の自己PRで伝えるべき軸
患者像とケアの文脈です。急性期、回復期、地域包括ケア、療養、精神科、小児、産科、ICUやHCU、オペ室、透析、訪問看護など、どの場面で力を発揮してきたのかを明らかにします。
次に体制と役割です。日勤と夜勤の受け持ち人数、二交替や三交替、オンコールの頻度、看護補助者やクラークとの分担、カンファレンスの位置づけを添えます。
次に手技と機器です。人工呼吸器やNPPV、中心静脈カテーテル、輸液ポンプやシリンジポンプ、心電図やモニター機器、透析回路、電子カルテやバーコード投薬の運用など。
次に安全と品質の取り組みです。ダブルチェック、インシデントの振り返り、感染対策、クリティカルパスの整備など。
最後に多職種連携です。医師、薬剤師、PT・OT・ST、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、訪問看護やケアマネとの協働を、具体的な流れで描きます。
読み手が評価しやすくなる書き方の順序
冒頭で一段の職務要約を置き、強みと領域を三行以内で示します。続いて、状況 役割 行動 結果の順で一例を深掘りします。ここでは期間、対象、指標を必ず入れます。例えば、平均在院日数が短い急性期一般病棟で、夜勤二名体制における術後観察を担い、疼痛コントロールの標準化で夜間のナースコールを減らした、のようにです。最後に学びと再現計画を一文で結び、応募先のジョブディスクリプションの用語に寄せて言い換えます。
指標で裏づけるコツ
看護は人を相手にする仕事ですが、数値や期間を少し添えるだけで伝わり方が変わります。転倒転落の発生率、褥瘡予防ケアの遵守率、疼痛スケールの改善、初回対応までの平均時間、退院支援のリードタイム、患者満足度アンケートの変化、オンコール対応件数や重症度分類の分布など、現場の記録から無理なく拾える数字を選びます。数字は完璧でなくて構いません。誰が読んでも比較できる形で書くことが重要です。
配属領域別の語り口のヒント
急性期では、救急搬送件数や術後管理、早期離床、鎮痛のプロトコル運用などを通じて、迅速な観察と判断の強みを描きます。回復期や地域包括ケアでは、ADL評価、退院支援、多職種カンファレンス、家族支援の流れを具体化します。ICUやHCUでは、人工呼吸器設定、循環管理、鎮静鎮痛、デリリアム予防、夜間の申し送り精度などに言及します。透析は穿刺、回路管理、合併症の初期対応、フットケア教育が鍵です。訪問看護は、一日の訪問計画、緊急対応、家族への指導と在宅療養環境の調整力を中心に語ります。外来やクリニックは、採血や処置の正確さとスピード、診療補助、検査の説明やフォローの工夫が評価ポイントになります。
記録とコミュニケーションの示し方
電子カルテのメーカー名や、フォーカスチャーティングやSOAP、PNSなどの記録文化に触れると、現場の運用に馴染んでいることが伝わります。申し送りの型、カンファレンスの頻度、医師やリハビリ職への報告の工夫など、日々の言語化の習慣は自己PRの強い根拠です。退院支援での情報共有や、地域包括ケアへの橋渡しの具体も有効です。
安全と学びの姿勢をどう書くか
ダブルチェック、バーコード投薬、手指衛生の遵守、インシデントの共有と是正、感染対策チームとの連携、BLSやACLSの定期受講、委員会活動やリンクナースの担当といった行動は、品質に対する姿勢を端的に示します。OJTやOff-JT、ラダー制度の到達度、学会発表や院外研修、勉強会の運営も、継続学習の証拠として読み手の安心につながります。
例文でイメージをつかむ
急性期一般病棟の例
急性期一般病棟で五年間、整形外科術後管理と早期離床に携わってきました。日勤は受け持ち七〜八名、夜勤は二名体制です。疼痛スケールと離床基準をチームでそろえ、夜間のナースコール集中を見直した結果、三か月で夜間帯の対応件数を前期比二五パーセント減らしました。救急からの入院時には観察項目をテンプレート化し、申し送りを短時間で標準化しています。入職後は御院のクリティカルパスに合わせ、術後三日目までの離床支援と疼痛コントロールの運用を自院の基準に寄せて再現します。
訪問看護の例
外来三年のあと訪問看護に転じ、一日五〜六件を担当しています。オンコールは月六回、ターミナルケアの場面では家族への説明と緊急時の初期対応の手順を丁寧に言語化し、看護必要度の観点を在宅に置き換えて運用してきました。急変対応の振り返りを月次で行い、事例集に残す仕組みを整えたことで、新人の立ち上がりが早まりました。御ステーションでもICT記録と多職種連携の導線を早期に理解し、直行直帰の運用を円滑に進めます。
面接で話すときの六十秒スクリプト
結論を最初に置き、どの患者層でどんな強みがあるかを一文で言い切ります。続いて一例に絞って、状況 役割 行動 結果の順に三十秒で語ります。最後の十秒で、応募先の運用や指標に触れながら、最初の九十日での貢献を約束します。長い肩書の列挙や多すぎる事例は控え、芯を一本に絞る方が印象に残ります。
電子応募と共有の注意点
自己PRは職務経歴書の冒頭にも配置できます。ファイルはPDFで、履歴書と西暦や用語の表記を統一します。ジョブディスクリプションの語彙と合わせると、ATSでの検索性が上がります。見出しと余白を整え、二ページ以内にまとめると読み手の負担が減ります。
ブランクや転科希望を前向きに言い換える
育児や介護、学習、体調などで離職期間がある場合は、経緯と学び直しを簡潔に添えます。例えば、復帰に向けたBLSの更新や感染管理の講座受講、電子カルテ操作のeラーニング受講などです。急性期から回復期、病棟から訪問などの転科では、共通する観察力や退院支援、多職種連携の経験を橋渡しとして示し、不足する手技は入職後の学習計画に落とし込みます。
よくある弱点と整え方
抽象的な性格の表明だけでは伝わりません。病棟種別、患者層、受け持ち人数、夜勤体制、記録方式、使用機器、連携の流れなどの固有名詞を少し入れます。次に数字の不足です。比率や件数、期間を一つで良いので添えます。最後に言葉の不一致です。応募先の採用ページやジョブディスクリプションの語彙に寄せるだけで、読み手の理解が早くなります。
仕上げのチェックポイント
自分の言葉で声に出して一分で言えるか。患者像と体制、手技や機器、記録と安全、連携と学びのどれか一つが数字で裏づけられているか。応募先の用語への言い換えができているか。履歴書や職務経歴書と矛盾がないか。ここまで整えば、自己PRは面接の強い導入になります。
自己PRは、あなたの看護の芯を、読み手が判断できる言葉に翻訳したものです。
患者像と体制を明らかにし、手技と記録、安全と連携を具体化し、数字と期間で裏づける。最後は応募先の言葉に寄せ、面接では一分の口頭版で再現する。小さな具体の積み重ねが、納得感のあるマッチングを引き寄せます。焦らず、しかし丁寧に磨いていきましょう。