試用期間とは
試用期間(しようきかん) とは、新しい職場で本採用に移る前に、仕事の進め方や安全ルール、チームとの相性をお互いに確かめるためのおためし期間のことです。看護現場では、患者安全を最優先にしながら、配属病棟の運用や電子カルテの使い方、申し送りやカンファレンスの型、ダブルチェックやバーコード投薬の手順、感染対策、多職種連携の流れを実地でなじませていきます。長さは施設ごとに異なりますが、数か月程度が多く、労働条件通知書と就業規則、雇用契約書に明記されます。
期間と位置づけ(本採用までの流れ)
多くの医療機関では、入職初日から雇用関係は始まり、社会保険や雇用保険の手続きも進みます。そのうえで一定期間を試用期間として位置づけ、到達目標や評価方法、面談のタイミングを決めます。配属の最終確定や受け持ち人数の上限、夜勤やオンコールに入る時期、委員会やリンクナースの関わり方などは段階的に広がるのが一般的です。終了時点で本採用の可否や課題、今後の育成計画をすり合わせます。
労働条件で最初に確認したいこと
試用期間中の賃金や手当の扱い、賞与の算定基礎、固定残業の有無と時間数、深夜・時間外の割増計算、交通費や住宅手当、通勤動線の前提は、労働条件通知書と就業規則で文字の裏取りをします。社会保険の加入時期、有給休暇の付与タイミング、試用期間を勤続年数に含めるかどうかも重要です。夜勤手当やオンコール手当、資格手当(認定看護師・専門看護師など)が試用中にどう扱われるかも先に確認すると安心です。
配属と業務範囲の段階設計
急性期・一般病棟、回復期、地域包括ケア、療養、精神科、小児・産科、ICU・HCU、オペ室、透析、外来、訪問看護など、領域によって立ち上がり方は変わります。最初はシャドーイングやPNSのペアで動き、フォーカスチャーティングやSOAPの記録、物品・機器の配置、救急導線や安全確認の要点を体で覚えます。受け持ち人数は安全に配慮して漸増し、申し送りの精度や観察の質を評価しながら任される範囲が広がっていきます。
学びと評価(OJT・Off-JT・1on1)
現場で学ぶOJTに加え、院内研修やeラーニングなどのOff-JTが組み合わされ、ラダーの到達基準やコンピテンシー評価で進捗が可視化されます。師長やプリセプター、教育担当との1on1面談が定期的にあり、チェックリストや目標シートを用いて振り返ります。疼痛コントロール、転倒・褥瘡予防、投薬のダブルチェック、退院支援、家族支援、感染対策、多職種連携といったキーワードで事例を言語化すると、評価の納得感が高まります。
30・60・90日の節目の過ごし方
最初の30日は環境と安全の土台づくりに集中し、導線の把握、電子カルテの操作、記録時間の確保、申し送りの型をそろえます。次の30日は一人称で任せられる場面を増やし、観察と判断、連携のスピードを磨きます。90日目安では、小さな改善を一つ提案し、委員会や教育の場に参加するなど、チームへの貢献を形にします。毎週の学びメモと月次レビューを積み重ねると、伸びるポイントが見えやすくなります。
夜勤・オンコールに入る時期の考え方
二交替や三交替の夜勤は、患者層や看護必要度、受け持ち人数、救急や緊急オペの頻度、夜勤帯の看護補助者の配置によって準備期間が変わります。初回は先輩とペアで入り、観察のリズム、仮眠と休憩、明けの記録時間の確保、夜間のインシデント対応の型を体験します。オンコールは出動条件や連絡ルート、代休の扱いまで含めて取り決めを共有します。
延長や見直しが必要になったとき
体調や家庭の事情、研修スケジュールの都合で試用期間の延長が提案されることがあります。延長は例外的な運用であり、目的と期間、評価方法を文字で明確にすることが大切です。万一ミスマッチの兆しがある場合も、いきなり結論ではなく、到達目標の再設定や配置換え、教育時間の追加など、合意できる改善策を先に試します。難しい言葉でいうと解約権留保という考え方に近い場面ですが、まずは安全と学びの確保を優先し、事実ベースで対話を重ねる姿勢が重要です。
ミスマッチかなと思ったときの対処
感じた違和感は、事例と数字で整理すると共有しやすくなります。例えば、受け持ち人数の増加で記録時間が不足した、夜勤帯のダブルチェック体制に揺らぎがあった、退院支援の連携に遅延が出た、などを具体にして面談で相談します。目的は責任の所在探しではなく、安全と品質の向上、そしてあなたの力をより活かす配置の探索です。
内定時・オファー面談での事前合意
オファー面談や内定承諾の前には、試用期間の長さ、評価の観点、面談の頻度、夜勤に入る時期、オンボーディングの計画、ラダーや1on1の運用、研修や資格補助の有無を言葉で合わせます。労働条件通知書と就業規則で差異がないかを最終確認し、口頭合意は短いメールで要点を残すと、後の認識ズレを防げます。
看護師ならではの到達目標の例
急性期なら術後観察と疼痛コントロールの標準手順を期限内に自立、回復期や地域包括ケアならADL評価と退院支援の推進、ICU・HCUなら人工呼吸器や循環管理の基本手順、オペ室ならタイムアウトや器械・外回りの役割分担、外来ならトリアージと患者説明、透析なら穿刺と回路管理、訪問看護なら記録のタイミングと家族支援の導線など、配属に合わせて三つ以内に絞ると集中しやすくなります。
入職前に準備しておくと立ち上がりが速いこと
直近の職務経歴書と自己PRの更新、電子カルテの基本操作の復習、与薬や感染対策の最新手順の読み直し、夜勤リズムへの体調準備、通勤ルートの確認、名札やシューズなど備品の用意、家庭内のサポート体制の調整は、初期負荷を下げてくれます。小さな不安は入職前の連絡で解消しておくと、初日の集中力が上がります。
試用期間とは、新しい環境で安全に力を発揮するための助走区間です。
試用期間(しようきかん) とは、新しい環境で安全に力を発揮するための助走区間です。配属、シフト、記録と安全、学びと評価、生活の五つの軸で事前合意を取り、30・60・90日の節目で振り返る。疑問や変化は事実と言葉で早めに共有し、合意は必ず文書で残す。この基本を丁寧に重ねれば、本採用後の立ち上がりは驚くほど安定します。あなたの看護がより自然に届く場所へ、前向きな一歩を踏み出していきましょう。